76話
朝。
恒一が目を覚ます。
まず最初に確認することがある。
右に暁。
抱きついている。
左に蹴飛ばされた布団。
以上。
「……」
最近は確認するまでもなかった。
毎日同じだからだ。
むしろ抱きつかれていない方が違和感があるかもしれない。
そこまで来ていた。
「起きろ」
「……ん」
暁が少し動く。
だが離れない。
恒一はため息を吐く。
「学校だぞ」
「分かってる」
そう言いながらさらに数秒くっついていた。
起きる気配がない。
結局十分後。
ようやく離れた。
学校、昼休み。
彩音が遠い目をしていた。
「慣れてきた自分が怖い」
「何がだ」
恒一が聞く。
「暁さんが神谷君にくっついてる光景」
鬼塚も頷く。
「もう日常だな」
「日常だな」
玲司まで同意した。
暁は首を傾げる。
意味が分からない。
自分としては普通だからだ。
好きな人の近くにいる。
それだけ昼休みの間も自然と恒一の隣。
移動する時も隣。
帰る時も隣。
もう誰も突っ込まない。
放課後。
今日は珍しく雨だった。
校門前。
傘を開く。
だが暁は持っていない。
「忘れた」
「お前な」
恒一はため息を吐く。
そして傘を少し傾けた。
「入れ」
「うん」
当然のように入る。
そして当然のように近い。
肩が触れている。
いやほぼ密着している。
「近くないか」
「濡れる」
理由は正しい。
だが少し近すぎる。
暁は平然としていた。
むしろ安心している。
好きな人と同じ傘。
恋愛漫画みたいだな。
と少し思った。
そして恥ずかしくなった。
夜、家。
寝る時間。
最近では寝る前の流れも固定化していた。
布団へ入る。
少し話す。
暁が近付く。
抱きつく。
寝る。
完全にルーティンだった。
「恒一」
「何だ」
「明日も学校か」
「平日だからな」
「そうか」
どうでもいい会話。
でもこういう時間が好きだった。
静かで落ち着いていて安心できる。
「……」
暁は少しだけ考える。
もし恒一に恋人ができたらこの時間はなくなるのだろうか。
そう思った瞬間。
胸が少し苦しくなった。
嫌だ。
やっぱり嫌だ。
だから無意識にぎゅっ。
いつもより強く抱きついた。
「苦しい」
「すまない」
すぐ緩める。
だが離れない。
恒一は苦笑した。
「本当に抱き枕扱いだな」
「違う」
即答だった。
だがでは何なのかと聞かれると困る。
好きな人だからそう答えるしかない。
でもまだ言えない。
だから落ち着くからだとだけ言った。
それは本当だった。
恒一はそうかとだけ返す。
そして目を閉じる。
しばらくして寝息が聞こえ始めた。
暁は少しだけ顔を上げる。
眠っている恒一を見る。
そして小さく笑った。
こんな時間がずっと続けばいい。
そう思ってしまうくらいにはもう手遅れだった。




