74話
最近、暁の様子がおかしかった。
いや前からおかしかった。
だがさらにおかしくなっていた。
朝。
「恒一」
「ん?」
「髪」
「髪?」
「寝癖」
そう言いながら近付いてくる。
そして自然に髪を整え始める。
近い、かなり近い。
「自分でできるぞ」
「私がやる」
即答だった。
恒一は諦めた。
学校。
放課
恒一が席で教科書を読んでいる。
すると暁が来る。
そして何も言わず隣の席に座る。
「どうした」
「別に」
別にではない。
ただ来ただけだった。
それだけ話すこともない。
でも近くにいたい。
昼休み。
屋上。
彩音は遠くから見ていた。
「悪化してる」
「悪化してるな」
鬼塚も同意する。
今の暁は恒一から離れない。
座る場所も隣。
歩く場所も隣。
気付けば隣。
完全に習慣化している。
「本人無自覚なの怖い」
彩音が呟く。
玲司は笑っていた。
「半分くらい自覚してると思うよ」
実際その通りだった。
暁自身、近くにいたい理由は分かっている。
ただ止める気がないだけだ。
放課後。
帰り道、住宅街。
歩いていると前から篠宮が来た。
「やあ」
「先輩」
軽く挨拶。
その瞬間、暁が恒一の腕を掴んだ。
無意識だった。
本当に無意識。
篠宮は見た。
恒一も見た。
暁も見た。
そして数秒。
「……」
「……」
「……」
沈黙。
「どうした?」
恒一が聞く。
「別に」
掴んだままだった。
篠宮は吹き出した。
「仲良いね」
「普通だ」
全然普通ではない。
夜、家。
夕飯と風呂。
そして寝る時間。
最近の暁には新しい癖があった。
抱きつくだけではない。
「恒一」
「何だ」
「こっち向け」
「何で」
「いいから」
理由はない。
ただ顔を見たいだけ恒一が向く。
すると満足そうに頷く。
「よし」
「何がよしなんだ」
意味不明だった。
だが本人は真面目である。
灯りが消える。
静かな時間。
そして数分後。
ぎゅっ。
抱きつく。
最近は完全に定位置だった。
「お前な」
恒一が呆れる。
「落ち着く」
「毎日言ってるな」
「本当だから」
暁は少しだけ体を寄せる。
昔なら考えられない。
誰かに依存することも、甘えることも隣にいたいと思うことも全部なかった。
でも今は違う。
恒一がいると安心する。
離れると少し寂しい。
近くにいると嬉しい。
だから自然と甘えてしまう。
「……」
暁は目を閉じる。
そして小さく服を掴いた。
恒一は気付いている。
最近さらに甘えてきていることを。
だが理由までは分からない。
だから軽く頭を撫でた。
無意識だった。
その瞬間、暁が固まる。
「?」
「どうした」
「……いや」
声が少し小さい。
顔も少し熱い。
頭を撫でられた。
好きな人にそれだけなのに心臓がうるさい。
恒一は気付かない。
そのまま目を閉じる。
しばらくして寝息が聞こえ始めた。
隣で暁は眠れなくなっていた。
頭を撫でられた感覚が残っている。
「反則だろ……」
小さく呟く。
もちろん本人には聞こえていなかった。
そしてその夜、暁はいつも以上に恒一へくっついたまま眠った。
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