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妖怪と契約させられた人間  作者: 東海林


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73/80

73話

休日、朝。

珍しく予定のない日だった。

夜行衆の動きもない。

協会からの連絡もない。


完全な休日。


「暇だな」


恒一がソファで呟く。


「そうだな」


暁も隣に座っていた。

当然のように距離は近い。

最近では誰も突っ込まなくなりそうなレベルだった。

テレビを見たり本を読んだり、のんびり過ごしていた。



昼頃。

恒一が買い物へ行こうと立ち上がる。


「行ってくる」


「私も行く」


即答だった。

予想通り。



十分後。

近所のスーパー。

二人で歩いている。


すると少し風が吹いた。

今日は思ったより涼しい。


「寒いか」


恒一が聞く。

暁は少し考える。


「少し」


本当に少しだった。

すると恒一が着ていたパーカーを脱ぐ。


「ほら」


差し出した。


「着とけ」


暁が固まる。


「いいのか」


「風邪引かれる方が面倒だ」


理由は恒一らしい。

暁は小さく頷いた。


「借りる」


パーカーを受け取る。

そして着る。


少し大きい、袖も余る。

だが不思議と落ち着いた。



家へ帰る。

買った物を片付ける。

それが終わっても、暁はパーカーを着たままだった。


ソファ。

いつもの場所。

そこで本を読んでいる。

だが何となく落ち着く。

安心する。


理由は分かっている。

恒一の匂いがするから。


「……」


そこまで考えて、少し顔が熱くなった。

かなり恥ずかしい。


しかし脱ぐ気にはならなかった。



夕方。


彩音から連絡が来る。

ビデオ通話だった。


『やっほー』


画面に映る彩音。

そして数秒後。


絶叫した。


『何で神谷君の服着てるの!?』


「借りた」


『借りたじゃないよ!?』


大騒ぎだった。

恒一は横で首を傾げている。

何が問題なのか分かっていない。


鬼塚まで通話に入ってきた。


『それ返せるの?』


「返す」


『本当に?』


暁は答えに詰まる。

返す。


もちろん返す。

返すのだが少しだけ。

本当に少しだけ惜しいと思ってしまった。


「……返す」


『今の間は何!?』


彩音が爆笑した。



夜、夕飯。

風呂。

そして寝る時間。


暁は自室でパーカーを畳んでいた。

明日返そうと思っている。

だが何となく少しだけ寂しい。


「重症だな」


自分で呟く。

彩音なら笑うだろう。

玲司も笑う。


否定できない。

そして寝室へ向かう。

恒一はもう布団に入っていた。


「返す」


パーカーを差し出す。


「ん」


恒一が受け取る。

それだけ普通のやり取り。

なのに暁は少しだけ残念だった。


灯りが消える。

横になる。


数分後。

無意識に恒一へ近付く。

そしていつものように抱きついた。


「……」


恒一はもう何も言わなかった。

慣れてしまった。


暁は目を閉じる。

パーカーは返した。


でも今はもっと落ち着く場所がある。

好きな人の隣、それだけで十分だった。

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