72話
朝。
恒一は天井を見ていた。
動けない。
理由は一つ。
右腕が完全に封じられている。
「……またか」
視線を落とす。
暁がいた。
当然のように抱きついている。
昨日よりさらに安定している。
もはや腕に定着している。
「暁」
呼ぶ……反応なし。
「おい」
「……ん」
少し動くだが離れない。
むしろ密着が強くなる。
「起きろ」
「起きてる」
起きてない。
完全に寝ぼけている。
数分後。
ようやく目を開ける。
「おはよう」
「おはようじゃない」
恒一は腕を指す。
暁は見る。
そして。
「定位置だ」
と言った。
「何だその定位置」
「ここ」
即答。
理屈が雑だった。
恒一は頭を抱えた。
もうダメだ。
これは習慣化している。
学校。
昼休み、屋上。
彩音は開口一番だった。
「もうそれカップルの寝方じゃん」
「違う」
恒一が即答。
「違わない」
鬼塚も即答。
「完全に違わない」
玲司は笑っているだけだった。
氷室は静かに紅茶を飲んでいる。
そして一言。
「距離感が壊れている」
その通りだった。
暁は首を傾げる。
「普通だ」
「どこがだ」
恒一が突っ込む。
だが暁には本気で分からない。
好きな人の隣にいる。
それだけそれが普通。
そう思っている。
放課後。
帰り道、住宅街。
歩きながら恒一が言う。
「お前さ」
「何だ」
「最近ずっとくっついてるよな」
「そうか」
「そうだろ」
暁は少し考える。
そして。
「安心する」
とだけ答えた。
それ以上は説明できない。
いや説明すると恥ずかしい。
だから言わない。
夜。
家。
夕飯と風呂。
そして寝る時間。
いつものベッド。
灯りが消える。
静かな時間。
恒一は横になる。
「今日はどうだ」
「何が」
「抱きつくのか」
暁は少し考える。
そして。
「分からない」
正直だった。
そのまま数分静かだった。
恒一は少しだけ安心して目を閉じる。
しかし数時間後。
やはり目が覚める。
「……」
予想通りだった。
抱きつかれている。
しかも今日は顔まで埋まっている。
「近い近い」
だが暁は起きない。
完全熟睡。
安心しきっている証拠だった。
恒一はため息を吐く。
そして諦める。
「まあいいか」
最近ずっとこれだ。
そして気付く。
自分の中でも少しずつそれが当たり前になっている。
昔ならあり得なかった距離。
今は少しだけ悪くないと思っている。
暁は眠ったまま小さく息を吐いた。
まるで安心しているように。
その夜から二人の距離はもう一段階近くなった。
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