70話
夜。
大規模襲撃から数日。
幸い大きな被害はなかった。
学校も平常運転。
だが暁の中にはまだ何かが残っていた。
黒峰の言葉。
『その人間がお前の弱点だ』
あの言葉が頭から離れない。
弱点、確かにそうだった。
恒一が傷付けば嫌だ。
危険な目に遭えば怖い。
失うことだけは考えたくない。
それはもう認めている。
好きだから。
でもそれだけではなかった。
昼休み
教室。
恒一が鬼塚たちと話している。
その中に篠宮真希もいた。
協会の用事らしい。
普通に会話している。
笑っている。
それだけ本当にそれだけだった。
なのに暁は少し面白くなかった。
「まただね」
隣から声がした。
玲司だった。
「何が」
「嫉妬」
即答。
暁は反論しようとして、できなかった。
最近は自覚がある。
だから否定できない。
玲司は笑った。
「好きって大変だね」
「……」
否定できない。
放課後。
帰り道。
恒一と暁の二人だけ。
いつもの光景。
「今日は静かだな」
恒一が言う。
「そうだな」
暁は少し考える。
そして聞いた。
「篠宮とは仲が良いのか」
恒一が首を傾げた。
「普通じゃないか」
「そうか」
少しだけ安心した。
本当に少しだけ。
だがそれでも完全には消えない。
モヤモヤが残る。
家へ帰る。
夕飯に風呂。
そして夜。
いつものベッド。
いつもの部屋。
灯りは消えている。
静かな時間。
恒一はすでに眠そうだった。
「おやすみ」
「おやすみ」
いつも通り。
だが暁は眠れない。
横を見る。
恒一がいる。
当たり前のように隣に。
もし本当に誰かと付き合ったら。
もし恋人ができたら。
今みたいに一緒にいられるのだろうか。
同じ家に住めるのだろうか。
同じベッドで眠れるのだろうか。
たぶん無理だ。
そう考えた瞬間、胸が苦しくなった。
嫌だ。
本当に嫌だ。
そして気付く。
自分は恒一を守りたいだけじゃない。
取られたくない。
そう思っている。
「……」
暁は少しだけ布団を握る。
そして無意識に、恒一の服を掴んだ。
昔からの癖。
安心するための行動。
だが今日は違う。
理由があった。
離れてほしくない。
そんな気持ちが混ざっている。
「恒一」
小さく呼ぶ。
返事はない。
寝ている。
それでも暁は小さく呟いた。
「他の人のところへ行くな」
声は本当に小さかった。
本人も言った後で気付く。
そして顔が熱くなる。
何を言っているんだろう。
完全に独占欲だった。
好きだから。
離れたくないから。
取られたくないから。
そんな感情。
以前の自分なら絶対になかった。
「……」
恥ずかしくなって顔を隠す。
幸い恒一は寝ている。
聞かれていない。
そのはずだった。
「ん……」
恒一が寝返りを打つ。
暁が固まる。
数秒、十秒。
動かない。
しかしまた寝息が聞こえ始めた。
どうやら起きていないらしい。
「……良かった」
小さく息を吐く。
だが胸の鼓動はなかなか収まらない。
好き、嫉妬、独占欲。
少し前までは知らなかった感情。
今では全部知っている。
そしてどんどん大きくなっている。
目を閉じる。
隣には恒一がいる。
それだけで少し安心した。
だが同時にいつか伝えなければならない。
そんな予感もしていた。
恋を知った白鬼は少しずつ前へ進み始めていた。
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