69話
数日後。
放課後。
空は暗かった。
雨雲が広がっている。
恒一と暁は学校を出た。
最近は比較的平和だった。
夜行衆も動いていない。
だが暁は警戒を解いていない。
嫌な予感が消えなかった。
「今日は静かだな」
恒一が言う。
「そうだな」
暁は短く答える。
その時だった。
玲司から連絡が入る。
『気を付けろ』
『夜行衆が動いてる』
短い文。
だが嫌な予感が一気に強くなる。
「恒一」
「分かってる」
二人は立ち止まる。
そして次の瞬間、空気が変わった。
結界、周囲の景色が歪む。
住宅街から人気のない異空間へ変わる。
「派手だな」
恒一が呟く。
目の前。
屋根の上。
電柱の上。
道路。
至る所に妖怪がいた。
十体、二十体。
それ以上。
今までで最大規模。
そして中央。
黒峰、雪華。
さらに見知らぬ男が立っていた。
「歓迎しよう」
黒峰が笑う。
「神谷恒一」
「お前に用がある」
嫌な予感しかしない。
暁が前へ出る。
妖気が漏れる。
空気が震える。
「下がれ」
黒峰が笑う。
「今日は白鬼ではない」
その言葉と同時。
見知らぬ男が動いた。
速い、一瞬で恒一の目の前。
「っ!」
恒一が反応する。
だが間に合わない。
男の手が伸びる。
その瞬間、轟音。
男が吹き飛んだ。
地面を転がる。
そしてその前に立っているのは、暁だった。
「……」
無言。
だが怒っている。
誰の目にも分かった。
黒峰が笑う。
「やはりそうか」
面白そうに。
本当に面白そうに。
「契約者が絡むと変わる」
暁は答えない。
ただ恒一の前に立つ。
絶対に近付けない。
そんな意思が見えた。
男が立ち上がる。
口元の血を拭う。
「強いな」
「当然」
暁が言う。
「お前程度では無理だ」
挑発だった。
男が怒る。
妖気が膨れ上がる。
そして再び突撃。
激突、衝撃波。
地面が砕ける。
周囲の妖怪が吹き飛ぶ。
圧倒的だった。
だが暁の方が強い。
一撃、二撃、三撃。
男は押される。
それでも仲間の妖怪たちが恒一へ向かう。
狙いは最初から恒一だった。
「恒一!」
暁が叫ぶ。
振り向く。
その瞬間、男が笑った。
隙。
それを狙っていた。
拳が迫る。
だが恒一もただ守られるだけではない。
札を投げる。
爆発、妖怪を吹き飛ばす。
しかし数が多い。
包囲される。
そして一体の妖怪が背後から迫る。
その瞬間だった。
暁の中で何かが切れた。
「触るな」
低い声。
今まで聞いたことのない声だった。
妖気が爆発する。
地面が割れる。
空気が震える。
白い髪が揺れる。
赤い瞳が輝く。
周囲の妖怪たちが凍り付く。
本能が理解した。
危険、圧倒的危険。
「恒一に」
一歩。
「触るな」
二歩。
轟音。
次の瞬間、妖怪たちはまとめて吹き飛んでいた。
圧倒、完全な圧倒。
雪華ですら目を見開く。
黒峰も笑みを消した。
今の白鬼は違う。
昔よりもずっと。
「守りたいものがあるか」
黒峰が呟く。
だから強い。
だから危険だ。
暁は恒一の前に立つ。
息は乱れていない。
だが怒っていた。
本気で誰よりも。
「帰れ」
静かな声。
だがそこには絶対の意思があった。
黒峰は数秒見つめる。
そして笑った。
「今日は引こう」
意外な言葉だった。
「だが覚えておけ」
黒峰が言う。
「その人間がお前の弱点だ」
そう言い残し、夜行衆は消えていった。
静寂。
結界が解ける。
元の住宅街へ戻る。
雨が降り始めていた。
ぽつり。
ぽつりと。
暁は振り返る。
まず確認するのは一つだけ。
「怪我は」
「ない」
恒一が答える。
その瞬間、暁はようやく息を吐いた。
本当に安心した顔だった。
恒一は少し笑う。
「心配しすぎだ」
「する」
即答だった。
昔ならこんな言葉は言わなかった。
だが今は違う。
守りたい。
失いたくない。
その気持ちはもう隠せないほど大きくなっていた。
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