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妖怪と契約させられた人間  作者: 東海林


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7/24

7話

翌日。


神谷恒一は久しぶりに平和な朝を迎えていた。

……はずだった。


「近い」


「そうか」


「近いんだよ」


朝食中。

暁が隣の椅子に座っている。


向かい側ではなく、隣。

肩が触れる距離だ。


「向かい空いてるだろ」


「ここが最適」


「便利な言葉だな本当に」


暁は首を傾げる。

本気で不思議そうだった。



学校へ向かう途中。

恒一は妙な視線を感じていた。

前から後ろから横から。


「……見られてるな」


「監視」


暁が即答する。


「やっぱりか」


協会が放置を決めた。

だからといって本当に何もしないわけではない。

むしろ逆だ。


放置するために観察する。

そんな感じだろう。



教室。

ガラッ。


扉を開ける。

そして。


「おはよう」


「おはよう神谷」


「暁さんもおはよう」


普通だった。

あまりにも普通だった。

恒一は思わず立ち止まる。

数日前まで大騒ぎだったのに。


クラスメイトたちはもう慣れている。

適応力が高すぎる。


「どうした?」


暁が聞く。


「いや……」


人間ってすごいな。

そう思った。



昼休み、屋上。

恒一、暁、霧島彩音。


珍しい組み合わせだった。

氷室は協会の仕事。

鬼塚は訓練。


今日は彩音だけだった。


「協会は本当に放置することになったよ」


彩音が言う。


「そんな簡単に決まるのか?」


「簡単じゃないよ」


苦笑する。


「上の人たち、かなり揉めたらしいし」


だろうな。

恒一でも分かる。


暁みたいな存在がいたら頭を抱える。


「でも結論は同じ」


彩音が続ける。


「触らない方が安全」


暁がジュースを飲む。

相変わらず無表情だ。


「正しい判断」


「自分で言うな」


恒一が突っ込む。


その時だった。


屋上の扉が開く。

入ってきたのは鬼塚だった。

だが様子がおかしい。


険しい、かなり険しい。


「見つけた」


「どうした?」


彩音が聞く。

鬼塚は恒一を見る。


そして。


「最近この辺で妖怪の出現が増えてる」


と言った。

空気が変わった。


「増えてる?」


「ああ」


鬼塚が頷く。


「偶然にしては多すぎる」


恒一は少し考える。

鬼や妖怪は前からいた。

だが自分が関わり始めてから急に増えている気がする。


「原因は?」


彩音が聞く。

鬼塚は首を振った。


「まだ分からない」


そして視線が暁へ向く。


「ただ」


「?」


「お前が出てきてからだ」



放課後。


帰宅途中。

恒一はその話を考えていた。


「暁」


「なんだ」


「お前が封印されてた理由って何だ?」


初めて聞く質問だった。

暁は少し黙る。


そして。


「覚えていない」


と答えた。


「本当に?」


「一部しか残っていない」


珍しい。

曖昧ではなく断定だった。


記憶がない。

それは本当らしい。


「ただ」


暁が続ける。


「戦っていた記憶はある」


「誰と?」


「分からない」


夕焼けの空、風が吹く。

どこか寂しそうに見えた。


もちろん表情は変わらない。

だが恒一には少しそう感じた。




その夜、神谷家。

夕食後、珍しく暁がテレビを見ていた。


動物番組、猫特集。


「好きなのか?」


「興味深い」


猫が寝転がる。

猫が走る。

猫が転ぶ。


暁は真剣だった。


「そんなにか」


「理解できない」


「何が」


「なぜあの生物は許される」


恒一は吹き出した。


「確かにな」


「合理性がない」


「可愛いからだろ」


「なるほど」


納得したらしい。


その時、ピンポーン。

インターホンが鳴った。


「誰だ?」


恒一が立ち上がる。

玄関を開く。

そこにいたのは氷室玲司だった。

しかもかなり焦っている。


「神谷」


「どうした」


氷室は息を整える。

そして。


「鬼塚がやられた」


と言った。

恒一の顔から笑みが消える。


「……は?」


「正確には生きている」


氷室が続ける。


「だが重傷だ」


ありえない。

鬼塚は協会でも上位戦力だったはずだ。

そんな相手が。


「誰にやられた」


恒一が聞く。

氷室は答えた。


「妖怪だ」


短い沈黙。

そして。


「今までの連中とは違う」


氷室の表情は真剣だった。


「知能がある」


その言葉を聞いた瞬間。

隣にいた暁の目がわずかに細くなった。

それは恒一が初めて見る反応だった。


まるで獲物を見つけた時のような。

冷たい視線だった。

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