6話
放課後。
神谷恒一はため息をついた。
目の前には氷室玲司。
鬼塚蓮、霧島彩音。
そして隣には当然のように暁。
最近ではクラスメイトたちも、
「ああ、いつもの」
くらいの反応になり始めていた。
慣れとは恐ろしい。
「神谷」
氷室が言う。
「今日は協会支部へ来てもらう」
「断る」
暁。
反射だった。
「まだ神谷に聞いてない」
「結果は同じ」
「お前は少し黙れ」
恒一が言う。
暁は首を傾げた。
「なぜだ」
「会話が終わるからだ」
「そうか」
全然納得していない顔だった。
結局。
恒一は協会支部へ行くことになった。
正確には、
「断ったら絶対面倒になる」
と思ったからである。
暁も当然同行。
そして到着した場所は――普通のオフィスビルだった。
「意外だな」
「もっと神社とか寺を想像したか?」
鬼塚が笑う。
「少し」
「今の時代そんなの効率悪い」
確かにその通りだった。
エレベーターで地下へ。
認証、結界、さらに認証。
普通のビルの地下とは思えない。
やがて大きな扉が開く。
そこには無数の陰陽師たちがいた。
「……」
「……」
空気が固まった。
職員たちが暁を見る。
暁も職員を見る。
数秒。
そして職員たちの顔色が変わった。
「本物か……」
「危険個体No.0候補……」
「冗談じゃないぞ」
聞こえてくる声。
恒一は嫌な予感しかしなかった。
「何だよNo.0候補って」
鬼塚が苦笑する。
「協会で最も危険と判断された存在に付く仮番号だ」
「そんなの聞いてない」
「俺たちも最近知った」
さらっと言う話ではない。
会議室。
協会の上層部数名。
氷室たち。
恒一と暁。
妙な面子だった。
そして会議が始まる。
白髪の老人が口を開く。
「まず確認したい」
視線が暁へ向く。
「君は人類に敵対する意思があるか?」
暁、即答。
「ない」
会議室が少しざわつく。
老人は続ける。
「では人類を守る意思は?」
「ない」
今度は別の意味でざわついた。
「では何を基準に行動する」
暁は少し考える。
そして恒一を指差した。
「これ」
「おい」
「契約者」
真顔だった。
会議室が静まり返る。
さらに質問が続く。
「協会へ所属する意思は?」
「ない」
「協力は?」
「必要なら」
「必要とは?」
「恒一が関わる場合」
協会側の表情がどんどん微妙になる。
組織の論理が通じない。
善悪でもない。
利益でもない。
全ての基準が神谷恒一になっている。
氷室は頭を押さえた。
報告書で読んでいた。
だが実際に聞くと予想以上だった。
会議の途中。
警報が鳴った。
ビーッ!!
ビーッ!!
ビーッ!!
全員が立ち上がる。
「何だ!?」
職員が叫ぶ。
「霊災発生!」
「場所は!?」
「第七隔離区域!」
会議室の空気が変わる。
そしてモニターに映像が映し出された。
巨大な影、黒い霧、人型。
だが鬼ではない。
もっと異質だった。
「上級妖怪……」
誰かが呟く。
職員たちの顔色が変わる。
「戦力を集めろ!」
「封鎖開始!」
「一般人の避難を優先!」
会議室が慌ただしくなる。
そんな中、暁はモニターを見ていた。
数秒。
そして。
「弱い」
と言った。
全員が止まる。
「は?」
鬼塚が聞き返す。
「弱い」
「いや、上級妖怪だぞ」
「そうなのか」
暁は首を傾げる。
本気で分かっていないらしい。
その時だった。
モニター内の妖怪が暴れた。
結界が砕ける。
職員が吹き飛ぶ。
状況が一気に悪化する。
「まずい!」
「このままでは突破される!」
老人が決断する。
「氷室隊出動!」
「了解!」
氷室が立ち上がる。
鬼塚も動く。
彩音も続く。
そして暁も立ち上がった。
「行く」
会議室全員が見る。
「協力するのか?」
老人が聞く。
暁は答えた。
「恒一も行く」
「行かねえよ!?」
恒一が叫ぶ。
しかし暁は完全に聞き流した。
十分後。
隔離区域。
上級妖怪は暴れていた。
協会の戦力でも押さえ込めない。
鬼塚が吹き飛ばされる。
氷室の結界も破られる。
彩音も防戦一方。
強い、明らかに強い。
その時白い影が前へ出た。
暁。
妖怪が咆哮する。
巨大な爪が振り下ろされる。
だが次の瞬間。
ズンッ。
妖怪の身体が真っ二つになった。
静寂。
誰も動かない。
職員たちも氷室たちも。
そして恒一も。
一撃だった。
たった一撃。
崩れ落ちる妖怪。
暁は振り返る。
そして恒一の隣まで歩いてくる。
「終わった」
まるで掃除でも終えたような口調。
会議室で見ていた上層部たちは言葉を失った。
理解した。
はっきりとこの存在は管理できない。
封印も無理。
拘束も無理。
戦力差が違いすぎる。
そして何より神谷恒一から引き離せない。
その日の夜。
協会本部。
上層部会議。
結論は早かった。
「監視継続」
「介入最小限」
「接触は許可制」
そして最後に老人が言った。
「放置する」
誰も反対しなかった。
できなかった。
彼らは初めて理解したのだ。
暁は危険存在ではある。
だが無理に動かした方が遥かに危険だと。
その頃、神谷家。
恒一はソファに座っていた。
隣には暁。
いつも通り近い。
「なあ」
「なんだ」
「協会に何か言われたか?」
暁は少し考える。
そして。
「特に」
そう答えた。
実際には違う。
だが彼女にとって重要ではなかった。
重要なのは今ここにいることだけだった。
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