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妖怪と契約させられた人間  作者: 東海林


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5話

翌日。


神谷恒一は教室の自分の席で机に突っ伏していた。


「……疲れた」


鬼、霊災、陰陽協会。

そして暁。


一日で人生が変わりすぎている。

寝不足も酷い。


昨夜は協会から事情聴取を受け、帰宅したのはかなり遅かった。

もっとも事情聴取といっても大したものではなかった。

なぜなら暁がほとんど話を聞かなかったからだ。


「協力してほしい」


氷室が言う。


「断る」


「情報提供だけでも」


「不要」


「……」


「帰る」


そんな感じだった。

会話が成立していない。


結果、協会側も深追いできなかった。


「はぁ……」


恒一はもう一度ため息をつく。

その時、隣の席の椅子が引かれる音がした。


ガタッ。


見なくても分かる、暁だ。

無表情、いつも通り。

だが周囲は全く普通ではなかった。


教室中の視線が集まっている。

昨日の鬼騒動は一般生徒には隠蔽された。

しかし校門付近で何かあったことはみんな知っている。


そしてその中心にいたのが神谷と暁だった。


「神谷」


「ん?」


「距離を確認する」


「嫌な予感しかしない」


暁は立ち上がった。

一歩離れる、二歩離れる、三歩離れる。

そのまま教室後方まで移動した。


「何してるんだ?」


「実験」


暁は真顔だった。

そして数秒、十秒、二十秒。


「……」


暁の眉がわずかに動く。

初めて見る反応だった。


「どうだ?」


「微妙」


「何が」


「思考速度が落ちている気がする」


「気のせいじゃないのか」


「分からない」


そう言いながら戻ってくる。

そして恒一の隣に座る。


「改善」


「本当に?」


「多分」


適当だった。




昼休み、屋上。


恒一はパンを食べていた。

その横には当然のように暁。


さらに向かい側には三人。

氷室玲司、霧島彩音、鬼塚蓮。


協会チームである。


「監視か?」


恒一が聞く。


「観察だ」


氷室が答えた。


「言い方変えただけだろ」


「似たようなものだ」


否定しなかった。

鬼塚は暁を見ながら言う。


「昨日のあれ、本気じゃなかっただろ」


「そうかもしれない」


暁、相変わらず曖昧。


「かもしれない?」


鬼塚が顔を引きつらせる。

あれだけの戦闘をしておいてその反応である。


普通の感覚ではない。

氷室が話を戻した。


「昨日確認できたことがある」


「何だ?」


「君たちの契約だ」


恒一は嫌な予感がした。


「距離依存型」


氷室が続ける。


「離れると暁の性能が落ちる」


「らしいな」


「逆に近いほど安定する」


「それも聞いた」


「問題は」


氷室が暁を見る。


「どこまで近ければいいのかだ」


午後。


その答えは意外な形で出た。

授業中。

恒一はノートを書いていた。


その時、暁が椅子ごと移動した。


ガタガタガタ。


「何してる」


「調整」


「何の」


「最適距離」


そして椅子がぴったり横につく。

肩が当たる。


近い、近すぎる。


「おい」


「安定した」


満足そうだった。

いや表情は変わっていない。

だが何となく分かる。


「戻れ」


「なぜ」


「授業中だからだ」


「重要か?」


「重要だ」


暁は少し考えた。

そして五センチだけ離れた。


「妥協した」


「そうか……」


恒一はもう諦めた。



放課後、帰り道。


二人で歩いていると霧島彩音が後ろから追いかけてきた。


「神谷くん」


「霧島?」


珍しい。

氷室や鬼塚はいない。


一人だった。


「少し聞きたいことがあるんだけど」


「何だ?」


彩音は暁を見る。

そして静かに言った。


「昨日から観察してて思ったんだけど」


「?」


「暁さん」


「なんだ」


「神谷くんが怪我したらどうする?」


沈黙。


暁は答えない。

数秒、十秒。


そして。


「排除する」


「誰を?」


「原因を」


即答だった。

彩音が少しだけ目を細める。


「じゃあ神谷くんが死んだら?」


空気が止まった。

恒一も思わず彩音を見る。


そんな質問するか普通。

しかし暁は本気で考えていた。

そして。


「分からない」


そう答えた。


「考えたことがない」


その言葉は嘘ではなかった。

だがほんのわずかに本当にわずかにだけその表情が揺れた気がした。



その夜、神谷家。


恒一は宿題をしていた。

暁はソファで本を読んでいる。

静かな時間、昨日までは想像もできなかった光景だ。

ふと恒一は聞いた。


「なあ」


「なんだ」


「なんで俺なんだ?」


暁が顔を上げる。


「契約の話か」


「そう」


神社には他の人間もいただろう。

なぜ自分だったのか。


暁は少し考える。

そして。


「分からない」


またそれだった。

だが続きがあった。


「ただ」


「?」


「お前だった」


それだけだった。

理由はない、理屈もない。

だが暁にとってはそれで十分らしかった。

そして彼女は当たり前のように恒一の隣へ移動する。


「近い」


「最適距離」


「便利な言葉だな」


「事実だ」


そう言って。


暁は再び本を開いた。

肩が少し触れている。


その距離をもう恒一は前ほど気にしなくなっていた。

知らないうちに二人の日常は少しずつ形になり始めていた。

もし「面白かった」「続き読みたい」と思ってもらえたら、ブックマークや評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)してもらえるとめちゃくちゃ嬉しいです!次の更新のやる気になります。

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