4話
放課後、校門前。
氷室玲司と霧島彩音。
そして神谷恒一と暁。
周囲から見ればただの生徒同士の会話にしか見えない。
だが空気は明らかに違った。
「断る」
暁は即答した。
氷室はため息をつく。
「話を聞くだけだ」
「必要ない」
「君は危険存在として――」
「興味がない」
また即答。
恒一は横で頭を抱えた。
会話になっていない。
「おい暁」
「なんだ」
「もう少し柔らかく話せ」
「なぜ?」
「世の中にはな」
恒一は言いかけてやめた。
無駄だ。
この手の説明は通じない。
霧島彩音が苦笑する。
「報告通りですね」
「報告?」
恒一が反応する。
氷室は少しだけ視線を向けた。
「俺たちは陰陽協会所属だ」
「陰陽協会?」
「妖怪や鬼、霊災を管理する組織」
恒一は黙った。
普通なら笑い飛ばす話だ。
だが今の状況では無理だった。
神社の地下、契約、暁。
全部経験してしまっている。
「つまり」
氷室が言う。
「君たちは監視対象だ」
「嫌だ」
暁。
即答。
「まだ何も言ってない」
「嫌だ」
「……」
氷室のこめかみに青筋が浮いた。
その時だった。
――ゾワッ。
背筋を冷たいものが走る。
暁が空を見上げた。
「どうした?」
恒一が聞く。
暁は答えない。
代わりに周囲を見渡した。
「来る」
短い言葉、直後。
校門近くの街灯が砕けた。
バンッ!!
爆発音、悲鳴。
生徒たちが振り返る。
「なっ――」
地面が割れた。
黒い霧が噴き出す。
その中から現れた。
巨大な影、二メートルを超える体躯。
漆黒の皮膚、額から伸びる角。
真っ赤な目、鬼だった。
「霊災発生!」
霧島が叫ぶ。
氷室も即座に札を取り出す。
周囲の一般生徒たちは状況を理解できていない。
鬼は咆哮した。
耳を塞ぎたくなるような低い声。
校門のフェンスを掴む。
鉄が紙のように潰れた。
「冗談だろ……」
恒一が呟く。
テレビの怪獣映画ではない、本物だ。
鬼は近くの生徒へ向かって走り出した。
「危ない!」
彩音が結界札を放つ。
光が走るだが、バキンッ!!
一撃で砕かれた。
「っ!?」
彩音の顔色が変わる。
強い。
想定以上だった。
その時、暁が前へ出た。
いつもの無表情。
変わらない。
まるで散歩にでも行くような足取り。
鬼が振り下ろした拳。
車すら潰せそうな一撃。
しかしドォン!!
地面だけが砕けた。
暁は消えていた。
「後ろ」
静かな声、
鬼が振り向く。
遅い。
次の瞬間。
白い光が走った。
ズンッ。
鬼の腕が落ちる。
一瞬だった。
何が起きたか分からない。
鬼自身も理解していない。
「グアアアアアアアア!!」
絶叫。
暁は無表情のまま立っていた。
手にはいつの間にか白い刀。
月光のように淡く輝いている。
「討伐開始」
その声に感情はなかった。
鬼塚蓮。
協会戦闘員。
ちょうど現場へ到着した彼は動きを止めた。
「は?」
目の前の光景が信じられない。
A級鬼。
本来なら協会が総力を挙げて討伐する相手。
それをたった一人の少女が押している。
いや押しているどころではない。
遊んでいる。
「なんだあれ……」
鬼が暴れる。
道路を破壊する。
ビルの壁が崩れる。
だが暁には当たらない。
まるで未来を見ているかのように避ける。
そして斬る。
一撃、また一撃。
鬼の身体が削れていく。
だがその時だった。
恒一は人混みに押される。
後ろへ、さらに後ろへ。
「おっと」
気づけば数十メートル離れていた。
そして暁の動きが止まる。
「……?」
初めて彼女の表情に違和感が浮かんだ。
鬼が迫る。
本来なら避けられる攻撃。
だが反応がわずかに遅れた。
ドォン!!
衝撃。
暁が吹き飛ぶ。
「暁!?」
恒一が叫ぶ。
氷室も目を見開いた。
「出力が落ちた……?」
ありえない。
さっきまで圧倒していた。
なのに暁は立ち上がりながら周囲を見る。
探している。
そして恒一を見つけた。
その瞬間。
「いた」
小さく呟く。
次の瞬間だった。
空気が震えた。
圧力、存在感。
全てが一変する。
鬼塚が思わず後退した。
「嘘だろ……」
さっきまで本気じゃなかった。
そう理解してしまった。
暁が一歩踏み出す。
消える。
そして鬼の胸に白い刀が突き刺さっていた。
静寂、鬼は動かない。
数秒後。
身体が光となって崩れた。
完全消滅。
終わった。
「……」
暁は振り返る。
そのまま恒一の前まで歩いてくる。
そして当然のように隣へ立った。
「問題ない」
「いや問題だらけだろ!」
恒一は叫ぶ。
周囲も同意だった。
氷室、彩音、鬼塚。
全員が理解していた。
さっきの戦闘で分かった。
あの少女は危険だ。
だがもっと問題なのは彼女の強さではない。
彼女の力が神谷恒一との距離によって変化していることだった。
氷室は静かに呟く。
「なるほど……」
協会の報告書が思い出される。
『契約者との関係性不明』
違う。
不明ではない。
明らかだった。
あの存在は神谷恒一を中心に回っている。
そしてそれは協会にとって最悪の情報だった。
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