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妖怪と契約させられた人間  作者: 東海林


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3/23

3話

「制服は?」


朝食を食べながら恒一が聞いた。

向かい側では暁が焼いたトーストを見つめている。


昨日の夕食で食事に興味を持ったのか、今朝も当然のように席についていた。


「ない」


「だろうな」


封印されていた存在に制服があるわけがない。


「学校には行くのか?」


「行く」


「いや、お前がじゃなくて俺が」


「なら私も行く」


即答だった。

恒一は額を押さえた。


予想通りである。


「なんで」


「契約者の監視」


「監視される覚えはない」


「護衛でもある」


「余計なお世話だ」


「そうか」


全然そう思っていない顔だった。



結局、暁は学校へ来た。

なぜか制服姿で。


「……その制服どこから出した」


登校中、恒一は聞いた。


「生成した」


「何を?」


「衣服」


「できるのか」


「可能」


さらっととんでもないことを言う。

しかもサイズまで完璧だった。


黒髪の恒一の隣を歩く白銀の少女。

朝の通学路で目立たないわけがない。

すれ違う生徒たちが振り返る。


「誰だ?」


「転校生?」


「すごく綺麗じゃない?」


そんな声が聞こえてくる。

当の本人は全く気にしていない。



教室。


ガラッ。

ドアを開ける。


そして一瞬で静かになった。

原因は言うまでもない。


恒一の後ろにいる暁だった。


「神谷……誰?」


「いや俺もよく分からん」


「説明になってないんだけど」


クラスメイトたちが集まってくる。

男子も女子も興味津々だ。


暁は無表情のまま周囲を見ている。

まるで動物園の動物を見る観光客を観察するように。


「名前は?」


女子の一人が聞く。


暁は答えた。


「暁」


「名字は?」


「ない」


「え?」


空気が止まる。

恒一は頭を抱えた。


ダメだこいつ。

社会生活に向いていない。


「親戚だよ」


適当に嘘をつく。


「へぇー」


全然納得していない顔だった。



一時間目開始。

そして問題が起きた。


暁が普通に教室にいる。

先生も困惑していた。


「神谷、その子は?」


「親戚です」


「そうか……」


そうかじゃない。

だが先生も朝から面倒事は避けたいらしい。


深く追及しなかった。

結果、暁は教室の後ろで授業を受けることになった。

そして全教科を理解していた。


「なんで分かるんだよ」


昼休み。

恒一が聞く。


「簡単だから」


「マジか」


「現代教育は効率的」


封印前の知識だけでは説明できない。

だが暁ならできそうな気がしてくる。



その頃、校舎の別棟。


「確認しました」


一人の少女が窓から校庭を見ていた。

黒髪のポニーテール。

整った顔立ち。


霧島彩音。


陰陽協会所属の監視員だった。


「報告通りですね」


彼女の視線の先に神谷恒一と暁がいる。

その隣には男子生徒が立っていた。


眼鏡を掛けた冷たい雰囲気の少年。


氷室玲司。


同じく協会所属。


「どう見える?」


氷室が聞く。

彩音は少し考えた。


「危険です」


「だろうな」


「ですが……」


言葉を選ぶ。


「敵意は感じません」


氷室は黙った。

報告書では理解不能の存在。


封印級危険個体。

本来なら即座に回収対象。

だが校庭でジュースを飲んでいる姿を見ると。

どうにも実感が湧かなかった。



「恒一」


昼休み。


暁が呼ぶ。


「ん?」


「これ」


紙パックのジュースを差し出してくる。


「なんだ?」


「購買」


「買ったのか」


「人気だった」


よく分からない理由だった。

だが差し出されたので受け取る。


「ありがとう」


そう言うと暁は少しだけ動きを止めた。


「……?」


「どうした?」


「いや」


数秒考える。

そして。


「礼を言われた経験が少ない」


ぽつりと呟いた。

恒一は少しだけ驚いた。


初めて聞いた。

暁自身の話を。


「そうなのか」


「そうらしい」


曖昧な返事。

だがほんの少しだけ彼女の表情が柔らかく見えた。



放課後。


帰宅しようとしたその時だった。

校門近く。


恒一たちの前に二人の生徒が立つ。

眼鏡の少年そしてポニーテールの少女。

氷室玲司と霧島彩音。


暁の視線がわずかに鋭くなる。


「初めまして」


氷室が言った。

その目は真っ直ぐ暁を見ている。


「少し話をしないか」


空気が変わった。

ただの同級生ではない。


恒一にも分かった。

そして暁は静かに一歩前へ出る。


「断る」


即答だった。

その場の空気が一気に張り詰める。


神谷恒一の日常はまだ始まったばかりだった。

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