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妖怪と契約させられた人間  作者: 東海林


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2/24

2話

「……で?」


神谷恒一は自宅の前で立ち止まった。

隣には白銀の髪の少女、暁。


どう考えても不審者だった。


「お前、本当に付いてくるのか」


「契約後の行動として当然」


「当然じゃない」


即答した。

だが暁は首を傾げるだけだった。


「なぜだ?」


「なぜって……」


恒一は言葉に詰まる。

説明しろと言われても難しい。

普通、知らない女の子を家に連れて帰らない。

ましてや神社の地下で出会った正体不明の少女だ。


「常識的にダメだろ」


「常識を知らない」


「そうだろうな!」


暁は真面目な顔で頷いた。

冗談ではないらしい。


恒一は深いため息をついた。


「はぁ……」


どうする、警察?

いや無理だ。


説明できない。

神社の地下で封印されてました、なんて言っても信じてもらえない。

というか自分でも信じられない。


「……とりあえず入るか」


結局そうなった。



神谷家。


両親は海外赴任中。

現在は高校生の恒一が一人暮らし状態だった。


「お邪魔します」


暁が玄関でそう言った。


「礼儀は知ってるのか」


「封印前の知識は残っている」


「封印前?」


「話すと長い」


「そうか……」


今は聞かない方が良さそうだった。

リビングに入る。


暁は周囲を見回した。

テレビ、ソファ、机、冷蔵庫。

全てを観察している。


まるで初めて見るように。


「人間の住居か」


「人間の住居だよ」


「想定より小さい」


「余計なお世話だ」


暁は静かに頷いた。

そして当然のようにソファへ座る。


その位置が問題だった。

恒一の隣、ほぼ密着。


「近い」


「そうか」


「そうかじゃない」


数十センチ離れる。

すると暁も同じだけ移動した。


「……」


恒一も移動。

暁も移動。


「何してるんだ」


「お前が何してるんだよ」


暁は不思議そうな顔をした。


「契約距離を維持している」


「契約距離?」


「近いほど安定する」


「どのくらい」


「今くらい」


最悪だった。



夕食。

冷蔵庫にあった食材で簡単に作る。

焼き魚、味噌汁、ご飯。


暁は席に座って料理を見つめていた。


「食べるのか?」


「必要なら」


「必要なら?」


「私は人間ではない」


「なるほど」


それは少し納得した。

だが。


「試してみる」


暁は箸を手に取った。

意外と扱いは上手い。

魚を一口。


もぐもぐ。


数秒。


無表情。


「どうだ?」


「……」


「どうなんだ?」


「分からない」


「分からない?」


「味覚の記録が存在しない」


恒一は頭を抱えた。

何だこいつ。

だが少しして暁がもう一口食べた。


さらにもう一口。

気づけば半分なくなっていた。


「普通に食ってるじゃねえか」


「嫌ではない」


「気に入ったってことか?」


「そういう分類になると思われる」


相変わらず機械みたいな喋り方だった。



夜。


問題が発生した。

寝る場所だ。


暁は少し考えた。

そして答えを出した。


「同室」


「却下」


「なぜだ」


「なぜでもだ」


説明するのが面倒だった。

しかし暁は納得していない。


「契約者の近くが最も効率的」


「効率で決めるな」


「重要事項」


真顔で言う。

どうやら本気らしい。


十分ほど押し問答した結果。


恒一は折れた。


「……布団は別だぞ」


「了承した」



深夜。


恒一は眠れなかった。

色々ありすぎた。

封印、契約、暁。

意味が分からない。


隣を見る。

床に敷いた布団。


そこに暁が横になっていた。

静かだった。


まるで人形のように。

本当に寝ているのかすら分からない。


「……」


その時だった。

暁が目を開けた。


「起きているな」


「お前もじゃねえか」


「眠る必要がない」


「便利だな」


「そうか?」


会話が止まる。

沈黙だが不思議と気まずくはなかった。


しばらくして暁がぽつりと呟いた。


「恒一」


「ん?」


「契約して正解だった」


「は?」


「理由は不明」


初めてだった。

暁が合理性のないことを言ったのは本人も理解していないようだった。


「……変な奴」


恒一がそう言うと暁は少しだけ目を細めた。

それが笑ったように見えたのはきっと気のせいだった。


そして翌朝。

恒一は人生で最悪の目覚めを迎えることになる。

なぜなら目を覚ました時、暁がすぐ隣でこちらを見ていたからだった。


「おはよう」


「うわぁっ!?」


その悲鳴は神谷家に盛大に響き渡った。

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