65話
翌日。
放課後。
空は曇っていた。
雨が降りそうな天気。
恒一と暁はいつものように帰宅していた。
昨日のこともあり、暁の警戒はさらに強くなっている。
「そんなに気にするなって」
恒一が言う。
「気にする」
即答だった。
もう何回目か分からないやり取りである。
「雪華ってそんなに強いのか?」
恒一が聞く。
暁は少し考える。
そして頷いた。
「強い」
「私より少し下」
恒一が思わず止まる。
「それかなり強くないか?」
「強い」
白鬼基準は信用してはいけない。
だがそれでも十分危険だと分かった。
その時だった。
ぶわっ。
周囲の空気が変わる。
妖気しかも複数。
「来たか」
恒一が呟く。
住宅街の路地。
人払いの結界が張られる。
景色が歪む。
そして現れた。
黒い装束の妖怪が五体。
さらにその奥銀髪の女。
雪華。
「……」
無言で立っている。
昨日の予告通りだった。
「迎えに来た」
雪華が言う。
暁は前へ出る。
「帰れ」
「嫌」
即答だった。
少し似ているな、と恒一は思った。
「戦うしかない」
雪華が妖気を放つ。
周囲の温度が一気に下がる。
地面に霜が広がった。
「恒一」
暁が前を向いたまま言う。
「下がれ」
その言葉に恒一は少し考えた。
そして首を横に振る。
「嫌だ」
今度は恒一だった。
暁が振り返る。
少し驚いている。
「危険だ」
「知ってる」
「なら」
「でも」
恒一は笑った。
「俺も戦えるだろ」
沈黙。
暁は数秒考えた。
昔なら絶対に認めなかった。
守るべき人間。
そう思っていたから。
だが今は違う。
目の前の少年は自分と並んで戦おうとしている。
ずっと何度も。
「……分かった」
小さく頷く。
「一緒に戦う」
その言葉を聞いて恒一は少し笑った。
初めてだった。
暁がそう言ったのは、雪華も少し目を見開く。
白鬼が誰かを信頼している。
その事実に。
そして戦闘が始まった。
妖怪たちが一斉に襲いかかる。
恒一が札を投げる。
爆発。
二体を吹き飛ばす。
同時に暁が前へ出る。
一撃、一体撃破。
圧倒的だった。
だが相手も弱くない。
別の妖怪が死角から恒一へ迫る。
「恒一!」
暁が叫ぶ。
しかし恒一は振り向かない。
そのまま札を発動。
妖怪が吹き飛ぶ。
「大丈夫だ」
恒一が言う。
暁は少し驚く。
信頼しているのは自分だけではなかった。
恒一もまた自分を信頼している。
そう気付いた。
雪華が動く。
無数の氷槍が空中に現れる。
そして放たれる。
「避けろ!」
恒一が叫ぶ。
だが暁は避けない。
前へ出る。
拳を振るう。
氷槍が砕け散る。
そのまま雪華へ突撃。
轟音、衝撃。
地面が砕ける。
激しい攻防。
周囲の景色が吹き飛ぶ。
だが雪華は笑っていた。
少しだけ。
「変わった」
戦いながら呟く。
「白鬼」
「……」
「強くなった」
昔よりも今の方がずっと。
暁は答えない。
ただ拳を振るう。
守りたいものがある。
失いたくないものがある。
それだけで力は変わる。
数分後。
雪華は距離を取った。
そして後ろへ下がる。
「撤退」
周囲の妖怪たちも消える。
黒峰の姿はない。
最初から様子見だったのだろう。
戦いは終わった。
静寂、雨が降り始める。
ぽつり。
ぽつりと。
暁は恒一を見る。
怪我はない。
それを確認して少しだけ安心した。
「大丈夫か」
暁が聞く。
「そっちこそ」
恒一が答える。
そして二人は同時に笑った。
短い時間だった。
だが確かに変わった。
守る者と守られる者ではない。
一緒に戦う仲間。
そんな関係に少しだけ近付いた日だった。
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