63話
翌日。
朝、教室。
恒一が席に座る。
すると周囲が少し騒がしかった。
「なあ」
「絶対そうだよな」
「やっぱり付き合ってる?」
そんな声が聞こえる。
「何の話だ」
恒一が鬼塚に聞く。
鬼塚は少し困った顔をした。
「お前ら」
「ん?」
「噂になってる」
嫌な予感しかしない。
「何の」
「付き合ってるって」
即答だった。
恒一は頭を抱えた。
予想通り過ぎる。
「違う」
「俺に言うな」
鬼塚が言う。
「周りに言え」
もっともだった。
その時、教室の扉が開く。
後から来た暁が入ってくる。
そして迷わず恒一の席へ向かう。
「おはよう」
「おう」
そのまま隣に立つ。
自然だった。
完全に自然だった。
しかしクラスメイト視点では違う。
「ほら」
「やっぱり」
「絶対付き合ってるじゃん」
ひそひそ声が聞こえる。
恒一は聞こえないふりをした。
暁は本当に気付いていない。
休み時間。
恒一が廊下へ出る、暁も出る。
自販機へ行く、暁も来る。
購買へ行く、暁も来る。
「やっぱり付き合ってるだろ」
男子生徒が言う。
「仲良すぎるし」
女子生徒も頷く。
完全に噂が広がっていた。
昼休み、屋上。
彩音は爆笑していた。
「ついに学校公認になった!」
「なってない」
恒一が即答する。
「なってるよ」
「なってない」
不毛な会話だった。
鬼塚も苦笑している。
氷室も否定しない。
玲司に至っては楽しそうだった。
「まあ普通はそう見えるよね」
「どこがだ」
恒一が言う。
玲司は指を折る。
「同居」
「うん」
「毎日一緒」
「うん」
「登下校も一緒」
「うん」
「昼休みも一緒」
「うん」
「休日も一緒」
「うん」
「ほぼ離れない」
「うん」
そこで玲司は笑った。
「付き合ってるね」
「違う」
恒一が即答した。
その横で暁は少し考えていた。
付き合う、恋人、好きな人同士。
そういう関係。
自分は恒一が好き。
では恋人になったらどうなるのか。
よく分からないだが、少しだけ興味はあった。
放課後。
帰り道。
住宅街。
いつもの二人。
「学校うるさかったな」
恒一が言う。
「そうだな」
暁も頷く。
少し歩く。
そして不意に聞いた。
「恒一」
「ん?」
「恋人とは何だ」
恒一が止まった。
またその話だった。
「何で急に」
「気になった」
本当だった。
かなり気になっている。
恒一は少し考える。
そして。
「好きな人同士で付き合うことじゃないか」
と答えた。
曖昧だった。
恋愛専門家ではない。
暁は黙る。
好きな人同士が付き合う。
つまり自分が恒一を好きで、恒一も自分を好きなら恋人になる。
理屈は分かった。
問題は後半だった。
「そうか」
小さく呟く。
恒一は気付かない。
その言葉の意味に。
夜、家。
夕飯、風呂。
そして寝る時間。
いつものベッド。
いつもの距離。
灯りは消えている。
静かな時間。
暁は目を閉じる。
だが少し眠れなかった。
今日の会話を思い出す。
恋人、好きな人同士、付き合う。
もしもし恒一が自分を好きだったら、そんなことを考えて胸が少しだけ高鳴る。
「……」
不思議だった。
戦いの時でも強敵を前にしても、こんな感覚になったことはない。
隣を見る。
恒一はもう眠っている。
安心した顔。
その寝顔を見て暁は小さく笑った。
「おやすみ」
返事はない。
それでもなぜか少し嬉しかった。
そしてゆっくり目を閉じる。
好きになってから、世界が少しだけ変わって見えていた。
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