59話
翌日。
朝。
恒一が目を覚ます。
隣には暁いつもの光景。
だが今日は少し違った。
起きている。
しかもじっとこちらを見ていた。
「……何してる」
「起きるのを待っていた」
「何で」
「何となく」
恒一はため息を吐く。
最近の暁は本当に変わった。
前の考えられない。
「おはよう」
「おはよう」
そして二人は起き上がった。
学校、
昼休み、屋上。
いつものメンバー。
昨日の襲撃の話になっていた。
「本当に来たんだな」
鬼塚が言う。
「思ったより早かった」
氷室も頷く。
玲司だけは平然としていた。
「むしろ遅いくらいだよ」
嫌なことを言う。
彩音は暁を見た。
「心配だった?」
「当然」
即答だった。
恒一が苦笑する。
彩音がニヤニヤする。
いつもの流れだった。
その時、玲司が面白そうに口を開いた。
「暁」
「何だ」
「一つ質問」
嫌な予感しかしない。
玲司は笑う。
そして聞いた。
「神谷恒一がいなくなったらどうする?」
静寂。
風が吹く。
いつもの暁なら少し考えていたかもしれない。
だが今日は違った。
「無理だ」
即答だった。
全員が固まる。
暁だけ普通だった。
「……無理?」
彩音が聞く。
「うん」
「何が」
暁は少し考える。
そして本当に自然に言った。
「想像できない」
静かだった。
だが本音だった。
朝起きる、学校へ行く。
帰る、話す。
一緒にご飯を食べる。
夜になる、同じ部屋で過ごす、
寝る。
その全部に恒一がいる。
それが当たり前になっていた。
だからいない生活が想像できない。
「なるほど」
玲司が笑う。
「重症だね」
「?」
意味が分からない。
暁は首を傾げた。
放課後。
帰り道。
恒一と暁。
二人だけ。
「今日の話」
恒一が口を開く。
「ん?」
「無理って何だよ」
暁は少し考える。
本当に少しだけ。
そして。
「そのまま」
と答えた。
「いないと困る」
「そんなにか」
「そんなに」
迷いがなかった。
恒一は何とも言えない顔になる。
暁は続ける。
「朝起きてもいない」
「学校にもいない」
「家にもいない」
少しずつ声が小さくなる。
「嫌だ」
最後だけはっきり言った。
恒一は何も返せなかった。
家へ帰る。
夕飯、風呂。
そして夜。
いつもの部屋。
いつものベッド。
静かな時間。
灯りは消えている。
「恒一」
「ん?」
暗闇の中。
暁が呼ぶ。
少し間が空く。
そして。
「昨日」
「襲われた時」
「ああ」
「怖かった」
珍しい言葉だった。
暁は強い。
恐怖とは無縁に見える。
そんな彼女が怖かったと言った。
「私じゃなくて」
「恒一が怪我するのが」
静かな声、本音だった。
恒一は天井を見る。
そして少しだけ笑った。
「心配しすぎだ」
「する」
即答だった。
それが暁だった。
しばらく沈黙。
すると少しだけ布団が動く。
暁が近付いてきた。
最近の定位置。
気付けばそれが自然になっている。
「おやすみ」
暁が言う。
「おやすみ」
恒一も返す。
目を閉じる。
その隣で暁も目を閉じた。
そして自分でも気付かないまま考える。
もし本当に恒一がいなくなったら嫌だ。
絶対に嫌だ、離れたくない。
ずっと一緒がいい。
そんなことを考えて少しだけ胸が苦しくなった。
その感情の正体にあと少しで辿り着くことも知らずに。
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