58話
翌日、朝。
恒一が目を覚ます。
隣には暁、もう完全に日常だった。
「おはよう」
「おはよう」
最近は起きる時間までほとんど同じになっている。
朝食を食べ学校へ向かう。
その途中。
暁は周囲を見ていた。
いつもより警戒している。
夜行衆、黒峰。
玲司の言葉。
全部気になっていた。
「そんな警戒するな」
恒一が言う。
「する」
即答だった。
「面倒だな」
「恒一が狙われる方が面倒だ」
それもそうだった。
学校、
授業。昼休み、放課後。
特に何も起きない。
平和だった。
だがそれが逆に不気味だった。
「今日は何もなかったな」
帰り道。
恒一が言う。
「だから嫌だ」
暁は答える。
嫌な予感が消えない。
その時だった。
鬼塚から連絡が来る。
『先生に呼ばれた』
『先帰っててくれ』
恒一は返信する。
『了解』
そして暁を見る。
「鬼塚待つから先帰れ」
「嫌だ」
即答。
「すぐ終わるだろ」
「嫌だ」
珍しく頑固だった。
しかし先生に呼ばれているのは本当。
十分くらいだろう。
結局。
「校門で待ってろ」
という形で落ち着いた。
恒一は校舎へ戻る。
暁は校門近くで待機。
そして。
五分後。
事件は起きた。
人気のない渡り廊下。
恒一が歩いているとふっと空気が変わる。
「――っ」
妖気、瞬間。
前後の出口が黒い霧で塞がれた。
「やっと一人になったな」
男の声、振り返る。
そこには見知らぬ妖怪が立っていた。
黒いスーツ。
人型だが人間ではない。
「夜行衆か」
「正解」
男が笑う。
「黒峰様の命令だ」
面倒なことになった。
恒一は舌打ちする。
相手は強い。
だが一番の問題は今ここに暁がいないことだった。
妖怪が近付く。
「安心しろ」
「殺すだけだ」
嫌な安心だった。
その瞬間、妖怪が踏み込む。
速い、人間なら反応できない。
だが次の瞬間、轟音。
妖怪が横へ吹き飛んだ。
壁を突き破る。
「なっ――」
妖怪が起き上がる。
そして目を見開いた。
そこにいたのは白い髪。
赤い瞳、冷たい視線。
暁だった。
「……」
何も言わない。
だが空気が凍る。
妖怪が後退る。
本能が警告している。
目の前の存在は危険だと。
「どうして――」
「恒一の気配が消えた」
暁が言う。
それだけだった。
校門にいたはずなのに、異変に気付いて来たらしい。
妖怪は焦るだがもう遅い。
「お前」
暁が一歩前へ出る。
「触ったか」
静かな声だった。
だが怒っている。
はっきり分かる。
妖怪が逃げようとする。
しかし次の瞬間には、目の前に暁がいた。
速すぎた。
反応すらできない。
「がっ――」
腹へ一撃。
妖怪の体が浮く。
そのまま壁へ叩き付けられる。
終わりだった。
一瞬、本当に一瞬だった。
妖怪は動かなくなる。
暁は振り返る。
まず見るのは恒一。
怪我がないか確認。
「大丈夫か」
「大丈夫」
「そうか」
ようやく安心した。
恒一は苦笑する。
「来るの早すぎるだろ」
「当然だ」
暁は答える。
「当然?」
「恒一が危険だった」
まるで当たり前のことを言う。
本人は気付いていない。
それがどれだけ特別なことなのか。
その頃、少し離れた場所。
黒峰は屋上から見ていた。
そして笑う。
「なるほど」
面白そうに本当に面白そうに。
「そこまでか」
予想以上だった。
白鬼はもう昔の白鬼ではない。
その事実を黒峰は改めて理解したのだった。
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