56話
遊園地で一日遊び尽くし帰りの駅。
夕焼けが街を赤く染めていた。
「疲れたー!」
彩音が大きく伸びをする。
「お前元気だな」
鬼塚が呆れる。
「楽しかったし!」
確かに楽しかった。
恒一もそう思う。
隣を見る。
暁は静かだった。
だが表情は悪くない。
むしろ機嫌は良さそうだった。
本人は隠しているつもりだろうが全然隠れていない。
電車が来る。
全員乗り込む。
休日の夕方なのでそこそこ混んでいた。
座席は空いている。
恒一と暁が並んで座る。
向かいには彩音たち。
電車が動き出す。
しばらく雑談。
遊園地の話。
ジェットコースターの話。
そして当然。
「暁さん面白かったなー」
彩音が笑う。
「何がだ」
「ジェットコースター」
「……」
暁が目を逸らす。
図星だった。
鬼塚まで笑いを堪えている。
「怖かったんだろ」
「少し」
「少しじゃないだろ」
恒一が言う。
「二時間くらい服掴んでたぞ」
「……」
反論できない。
静かになった。
彩音が爆笑する。
そんなやり取りをしているうちに、だんだん会話が減る。
疲れたのだろう。
皆静かになる。
電車の揺れだけが続く。
そして十分後。
恒一は気付く。
肩に重みがあった。
見る、暁だった。
また寝ている。
「またか」
小さく呟く。
動物園の帰りもそうだった。
今日はさらに疲れたのだろう。
顔を見る。
気持ち良さそうに寝ている。
完全に無防備だった。
昔の白鬼を知る者が見たら卒倒しそうな姿である。
向かい側、彩音がスマホを構えていた。
「やめろ」
「まだ何もしてない」
「絶対撮る気だったろ」
「バレた」
当然だった。
数駅後。
彩音たちが先に降りる。
「じゃあねー!」
「また学校で」
鬼塚たちも手を振る。
恒一も軽く手を上げる。
そして暁は寝ている。
起きない。
「幸せそうだな」
彩音が最後に言った。
恒一は聞こえないふりをした。
最寄り駅。
「おい」
恒一が呼ぶ。
「……ん」
「着いたぞ」
ゆっくり目を開く。
数秒。
状況確認。
そして。
「寝ていた」
「知ってる」
最近多い。
暁は少し考えた。
そして。
「恒一の隣は眠くなる」
と言った。
「子供か」
「分からない」
本人も理由は分からない。
ただ安心する。
落ち着く、だから眠くなる。
それだけだった。
家へ帰る。
夕飯、風呂。
そして夜。
いつものように恒一の部屋。
いつものように同じベッド。
完全に習慣になっていた。
布団へ入る。
部屋の灯りは消えている。
静かな夜。
「恒一」
「ん?」
暗闇の中。
暁が呼ぶ。
少しだけ間を置いて。
「今日は楽しかった」
また同じことを言った。
動物園の時も言っていた。
遊園地でも本当に楽しかったのだろう。
「そうか」
「うん」
しばらく沈黙。
そして暁は少しだけ近付く。
無意識だった。
以前より自然になっている。
「また行きたい」
小さな声。
恒一は少し笑う。
「じゃあまた今度な」
「うん」
満足そうな返事だった。
そのまま目を閉じる。
最近こうして眠る時間が好きだった。
隣に恒一がいる。
それだけで落ち着く。
理由はまだ完全には分からない。
でも離れたいとは思わなかった。
むしろずっとこのままでも良いと思ってしまう。
そんなことを考えながら暁は静かに眠りへ落ちていった。
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