55話
遊園地。
午後。
恒一の嫌な予感は当たった。
非常に綺麗に当たった。
観覧車の前。
彩音が笑顔だった。
それだけで嫌な予感しかしない。
「じゃあ乗ろう!」
「全員でか?」
恒一が聞く。
「観覧車って四人乗りくらいだよね?」
鬼塚が言う。
その瞬間、彩音が親指を立てた。
「だから分かれる!」
嫌な予感が確信へ変わった。
数分後。
結果。
恒一と暁。
二人。
鬼塚と氷室。
二人。
そして彩音だけ別のゴンドラ。
「何でそうなった」
「偶然だよ!」
絶対嘘だった。
ゴンドラの扉が閉まる。
ゆっくりと上昇を始めた。
静かだった。
ジェットコースターと違い揺れも少ない。
暁は少し安心した顔をしている。
「これは平気か」
恒一が聞く。
「うん」
即答だった。
「落ちないし」
「基準そこなんだな」
しばらく沈黙。
観覧車はゆっくり上がっていく。
外の景色も綺麗だった。
街並みが見える。
遠くには海も見えた。
暁は窓の外を見ていた。
珍しく興味深そうだった。
「高いな」
「そうだな」
「綺麗だ」
「そうだな」
短いやり取りだが居心地は悪くない。
むしろ落ち着く。
最近は二人きりでも自然だった。
その時暁が不意に聞いた。
「恒一」
「ん?」
「好きな人はいるか」
恒一が固まった。
数秒本当に数秒。
思考が停止した。
「何で急に」
「彩音に聞かれた」
犯人が判明した。
絶対余計なことを吹き込んでいる。
「別にいない」
恒一は答えた。
今のところは本当だった。
暁は少し考える。
そして。
「そうか」
とだけ言った。
だがなぜか少し安心した。
本人も理由は分からない。
恒一は逆に聞く。
「お前はどうなんだ」
「私?」
「好きなやつ」
暁が黙る、考える。
頭の中に浮かぶ人物。
一人だけだった。
毎日会う、一緒に住んでいる。
一緒に寝る、一緒に学校へ行く。
離れると落ち着かない。
危険だと怒る。
隣にいると安心する。
全部同じ人物だった。
だがまだ答えは出ない。
「分からない」
結局そう言った。
恒一もそれ以上は聞かない。
観覧車は頂上へ近付く。
景色が一番綺麗な場所。
静かな時間。
その時だった。
ごとん、小さく揺れる。
観覧車特有の動き。
だが暁が反応した。
少しだけ体が近付く。
無意識だった。
「怖いのか」
恒一が聞く。
「少し」
意外だった。
「高いの平気そうなのに」
「落ちるのは嫌だ」
それはそうだった。
数分後。
観覧車は下降を始める。
地面が近付いてくる。
そして暁は気付いた。
さっきから少し恒一へ寄っていたことに。
「……」
静かに元の位置へ戻る。
何も言わないだが耳が少し赤い。
恒一は気付いていなかった。
降車、外へ出る。
すると待ち構えていた。
彩音が。
「どうだった!?」
「普通だった」
恒一が言う。
「つまんない!」
「何を期待してたんだ」
彩音は答えなかった。
絶対ろくでもない理由だからだ。
その後も遊園地を回る。
ゲームコーナー、お土産屋、軽食。
気付けば夕方だった。
帰り道。
駅へ向かう途中。
暁がぽつりと言った。
「楽しかった」
恒一が見る。
本当に楽しそうだった。
動物園の時よりも少しだけ表情が柔らかい。
「なら良かった」
「うん」
短い返事。
だがその声はどこか弾んでいた。
そして気付けばまた暁は恒一の服の裾を掴んでいた。
もう完全に癖になっているらしい。
恒一は見なかったことにした。
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