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妖怪と契約させられた人間  作者: 東海林


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53/65

53話

「着いたぞ」


恒一が小さく声をかける。

電車が最寄り駅へ到着していた。


「……ん」


暁がゆっくり目を開ける。


数秒、状況を確認する。

そして自分が恒一の肩に寄りかかっていたことに気付いた。


「寝ていた」


「見れば分かる」


「そうか」


特に慌てる様子はない。

恒一も今さらだった。

最近はお互い色々と慣れ過ぎている。



ホームへ降りる。

彩音たちは別方向なのでここで解散だった。


「じゃあねー!」


「また学校で」


鬼塚たちも手を振る。


「おう」


「うん」


そして恒一と暁は二人で歩き始めた。


夕方、空は少し赤い。

休日の終わり特有の静かな時間だった。


「疲れたか」


恒一が聞く。


「少し」


珍しい答えだった。

暁は体力だけなら人間離れしている。

そんな彼女が疲れたと言うのだから、精神的な疲労だろう。


「楽しかったけどな」


恒一が言う。

すると暁が少しだけ嬉しそうな顔をした。


「私もだ」


短い返事だが本音だった。

しばらく歩く。

すると商店街が見えてきた。


日曜の夕方。

人はそれなりに多い。


その時だった。

前から走ってきた小学生がぶつかりそうになる。


「危ない」


恒一が咄嗟に暁の手を掴んだ。

引き寄せる、子供はそのまま走り去っていった。


「大丈夫か」


「うん」


暁は頷く。

だが問題が一つあった。

手を繋いだままだった。


恒一は数秒後に気付く。


「あ」


離そうとする。

しかし離れなかった。


正確には暁が離していなかった。


「暁?」


「何だ」


「手」


「うん」


握ったままだった。


「離さないのか」


暁は少し考える。

本当に少しだけ。

そして。


「人が多い」


と言った。


「さっきもそうだった」


「まあそうだけど」


理屈としては正しい。

正しいのだが何となく納得できない。

しかし暁は真顔だった。


結局、そのまま歩くことになった。


商店街を抜ける。

住宅街へ入る。

それでも離れない。


「もう人少ないぞ」


恒一が言う。


「そうだな」


「じゃあ」


「別に問題ない」


即答だった。

恒一は諦めた。


一方、暁は内心少し落ち着いていた。


温かい、安心する。

なぜかは分からない。

ただ嫌じゃない。

むしろ心地良い。



家へ到着する。玄関。

そこでようやく手が離れた。


「ただいま」


「ただいま」


リビングへ向かう。

夕飯の準備を始める。


その途中、恒一が何気なく言った。


「今日はよく寝てたな」


「眠かった」


「肩重くなかったか」


暁が聞く。


「別に」


本音だった。

気にならなかった。

すると暁は少しだけ安心した。


夕飯、風呂。

そして夜。


いつものように恒一の部屋。

いつものように同じベッド。

完全に日常だった。


布団へ入る。

部屋の明かりは消えている。

静かな夜。


「恒一」


「ん?」


暗闇の中。

暁が小さく呟く。


「今日は楽しかった」


「そうか」


「うん」


少し間が空く。

そして。


「また行きたい」


珍しく。

自分から言った。

恒一は少し笑う。


「じゃあまたどこか行くか」


「うん」


その返事は少しだけ弾んでいた。

そして暁は目を閉じる。


動物園、迷子の女の子、帰り道。

色々思い出す。


全部楽しかった。

昔なら理解できなかった感情。

でも今は違う。


少しずつ少しずつ、白鬼ではなく暁として生きている。


そんな気がした。


その夜暁は眠りにつく直前無意識に少しだけ恒一へ近付いていた。

本人は気づいてなかった

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