49話
翌朝。
神谷恒一は妙な違和感で目を覚ました。
温かい、やけに近い、何か柔らかい。
「……」
ゆっくり目を開く。
そして固まった。
目の前に暁の顔があった。
近い、ものすごく近い。
昨夜はベッドの端と端だったはずだ。
なのになぜか今は違う。
暁が抱き枕のようにしがみついていた。
「おい」
小声で呼ぶ、反応なし。
完全に熟睡している。
「暁」
「……ん」
少しだけ反応するだが離れない。
むしろさらに近付いた。
「おい」
困る、非常に困る。
しかし本人は気持ち良さそうに寝ている。
結局十分ほどそのままだった。
やがて暁がゆっくり目を開く。
数秒、状況を確認する。
そして。
「おはよう」
普通だった。
「おはようじゃない」
恒一が言う。
「何だ」
「何だじゃない」
暁は自分を見る。
恒一を見る。
そしてようやく気付いた。
「近いな」
「そうだな!」
やっと理解した。
だが慌てる様子はない。
少し考えてから。
「寝相だ」
と言った。
「便利な言葉だな」
本当にその通りだった。
朝食、リビング。
恒一は少し眠そうだった。
暁は普通だった。
昨夜何事もなかったかのように。
「よく普通でいられるな」
「?」
「いや何でもない」
理解していないなら説明するだけ無駄だった。
学校、教室。
すると彩音がやって来た。
「おはよー!」
元気だった。
朝からうるさい。
「おう」
「そういえば昨日どうだった?」
嫌な予感しかしない。
「何が」
「一緒に寝たんでしょ?」
静寂。
鬼塚が吹き出した。
氷室が顔を覆う。
恒一は頭を抱える。
なぜ知っている。
「暁さんから聞いた」
裏切り者だった。
暁は首を傾げる。
「何か問題か」
「問題しかないよ!」
彩音が叫ぶ。
周囲の生徒が見る。
「静かにしろ」
「無理!」
昼休み、屋上。
いつもの場所。
当然のように話題は昨夜だった。
「で?」
彩音が聞く。
「何もない」
恒一が即答する。
事実だった。
何もない本当に何もない。
だが。
「抱きついて寝てた」
恒一が付け加える。
彩音が机を叩いた。
「ほら!」
「寝相だ」
暁が言う。
「絶対違う!」
彩音が断言する。
玲司まで笑っていた。
「順調だね」
「何がだ」
「全部」
意味が分からない。
放課後、帰り道。
夕焼け、いつもの二人。
「今日はうるさかったな」
恒一が言う。
「そうだな」
暁も頷く。
少し歩く。
すると暁が聞いてきた。
「嫌だったか」
「何が」
「昨日」
少しだけ声が小さい。
珍しい、恒一は考える。
そして。
「別に」
と答えた。
本音だった。
驚いた、困った。
だが嫌ではなかった。
暁は少しだけ安心した。
本人にも理由は分からない。
家へ帰る。
夕飯、風呂そして夜。
恒一は自室で本を読んでいた。
コンコン。
「入れ」
暁が入ってくる。
最近の日課だった。
そして当然のように座る。
静かな時間。
しばらくして暁がぽつりと言った。
「恒一」
「ん?」
「昨日はよく眠れた」
「そうか」
「うん」
少し間が空く。
そして。
「隣にいたからだと思う」
恒一が固まる。
暁は真顔だった。
悪意も他意もない。
ただ事実を言っただけそれが一番困る。
「お前なぁ……」
「何だ」
「いや何でもない」
説明しても分からない。
多分、本人が気付くまで、誰が何を言っても分からないのだろう。
その頃窓の外。
遠くのビルの屋上。
玲司が夜空を見上げていた。
「もうすぐかな」
小さく呟く。
その隣には見知らぬ妖怪の影。
夜行衆の幹部だった。
静かに確実に次の事件が近付いていた。
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