47話
翌朝。
恒一が目を覚ます。
熱はほとんど下がっていた。
体も軽い。
「治ったな」
ベッドから起き上がる。
すると床の布団で寝ていたはずの暁がいない。
代わりに朝食の匂いがした。
リビングへ向かう。
「おはよう」
「おはよう」
暁が振り返る。
いつも通りだった。
まるで昨夜床で寝ていたことなど無かったかのように。
「熱は」
「もう大丈夫そうだ」
「そうか」
少しだけ本当に少しだけ安心した顔をした。
本人は気付いていない。
学校。
久しぶりの登校。
教室へ入った瞬間。
「生きてた!」
彩音だった。
「大袈裟だな」
「風邪って聞いたから!」
鬼塚もやって来る。
「珍しいな」
「俺もそう思う」
実際珍しい。
恒一はあまり体調を崩さない。
そして彩音の視線が暁へ向く。
「看病どうだった?」
「問題なかった」
「一緒の部屋で寝た?」
静寂。
恒一が固まる。
鬼塚も固まる。
暁だけ普通だった。
「寝た」
即答。
彩音が爆笑した。
鬼塚が頭を抱えた。
「お前らなぁ……」
「何が問題なんだ」
暁は本気で分かっていない。
放課後。
帰り道。
いつもの二人。
風邪も治り平和だった。
「今日は何もなかったな」
恒一が言う。
「そうだな」
夜行衆も出ない。
玲司も来ない。
珍しく本当に平和だった。
家へ帰る。
夕飯、風呂。
そして夜。
恒一は自室で本を読んでいた。
昨日は風邪だったので早く寝た。
今日は普通に起きている。
その頃暁は自室にいた。
ベッドに座っている。
静かだった、なのになぜか落ち着かない。
本を読む、集中できない。
スマホを見る、つまらない。
天井を見る。
暇だった。
「……」
おかしい。
いつもなら平気だった。
一人でも平気だった。
なのに今日は妙に落ち着かない。
理由はすぐに分かった。
昨日、恒一の部屋にいたからだ。
同じ空間、同じ時間。
それが妙に心地良かった。
「……」
しばらく考える。
そして立ち上がった。
数分後。
コンコン。
恒一の部屋。
「入れ」
ドアが開く。
暁だった。
「どうした」
「眠れない」
恒一が本から顔を上げる。
「昼寝したのか?」
「してない」
「じゃあ何で」
暁は少し考える。
そして。
「分からない」
と答えた。
予想通りだった。
結局。
暁は部屋へ入ってくる。
椅子へ座る。
静かな時間、恒一は本を読む。
暁は何もせずにいる。
十分、二十分、三十分。
すると不思議なことにさっきまでの落ち着かなさが消えていた。
「どうだ」
恒一が聞く。
「落ち着いた」
「そうか」
「うん」
本当に落ち着いた。
理由は分からない。
だがここにいると安心する。
最近ずっとそうだった。
その時スマホが鳴る。
彩音からだった。
『神谷くん生きてる?』
『生きてる』
『暁さんいる?』
『いる』
『やっぱり』
何がやっぱりなのか。
恒一には分からなかった。
一方暁は窓の外を見ていた。
静かな夜少し風が吹いている。
そしてぽつりと呟く。
「恒一」
「ん?」
「昨日」
少し考える。
「安心した」
恒一が見る。
暁は続けた。
「同じ部屋にいたから」
それは本音だった。
何も隠していない。
恒一は少し困った顔になる。
最近の暁は距離感がおかしい。
だが本人は無自覚だ。
だから余計に困る。
「そうか」
それだけ返す。
暁は小さく頷いた。
そして気付けば少し眠くなっていた。
さっきまで眠れなかったのに不思議だった。
「眠い」
「じゃあ寝ろ」
「うん」
素直だった。
立ち上がる。
ドアへ向かう。
だが途中で止まる。
振り返る。
「恒一」
「何だ」
「おやすみ」
「おやすみ」
短いやり取り。
それだけなのになぜか少し嬉しかった。
自室へ戻った暁はベッドへ入る。
そして数分で眠りについた。
今日はよく眠れそうだった。
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