46話
翌日、朝。
珍しく本当に珍しく神谷恒一は起きられなかった。
「……」
目を開ける。
体が重い、頭も痛い、喉も少し痛い。
嫌な予感しかしない。
時計を見る。
七時三十分。
完全に寝坊だった。
「やば――」
起き上がろうとして失敗した。
ふらつく、そのままベッドへ戻る。
「何だこれ」
その時、ドアが開いた。
「恒一」
暁だった。
そして一瞬で異変に気付く。
「顔色が悪い」
「そうかも」
「熱は」
「分からん」
暁は無言で近付く。
そして額へ手を当てた。
冷たい、気持ちいい。
「熱いな」
「風邪か」
「多分」
暁は少し考える。
そしてスマホを取り出した。
「何してる」
「学校へ連絡」
「待て」
「休みだろ」
正論だった。
反論できない。
結局、学校は欠席することになった。
午前九時。
恒一はベッドの中。
熱は三十八度。
完全に風邪だった。
「最悪だ」
「寝ろ」
暁が言う。
なぜか椅子に座っている。
普通にいる。
「学校は」
「休んだ」
「何で」
「看病」
恒一が固まる。
「行け」
「断る」
即答だった。
「私より恒一の方が大事だ」
さらっと言った。
本人は何も思っていない。
恒一だけが困る。
昼前。
お粥が出てきた。
「食べろ」
「作ったのか」
「うん」
普通に美味しかった。
悔しい。
「どうだ」
「美味い」
暁が少しだけ満足そうな顔をする。
本当に少しだけ。
昼。
スマホが鳴る。
彩音だった。
『神谷くん休み!?』
『風邪』
『大丈夫!?』
『多分』
『暁さんいる?』
恒一は少し考える。
そしてスマホを暁へ渡した。
数秒後。
『奥さんじゃん』
というメッセージが返ってきた。
暁が首を傾げる。
「奥さんとは何だ」
「気にするな」
「?」
分かっていない。
午後、恒一は眠る。
起きる、眠る、起きるを繰り返していた。
そして気付いた。
起きる度に暁がいる。
本を読んでいる。
スマホを見ている。
窓の外を見ている。
何をしていてもそこにいる。
「お前ずっといるな」
夕方。
恒一が言う。
「そうだな」
「暇だろ」
「別に」
暁は答える。
本当だった。
不思議と暇ではない。
ただそこにいるだけで良かった。
夜。
熱は少し下がった。
三十七度台だいぶ楽になる。
「もう大丈夫そうだな」
恒一が言う。
「まだだ」
暁は真顔だった。
「完全に治るまで駄目だ」
過保護だった。
本人は気付いていない。
その時、ふと恒一が笑った。
「何だ」
暁が聞く。
「いや」
少し考える。
そして。
「お前本当に変わったな」
と言った。
暁は黙る。
「前から絶対看病とかしなかっただろ」
「……多分」
「だろうな」
静かな部屋。
しばらくして暁が小さく呟いた。
「恒一だからだ」
「ん?」
「他の人ならしない」
恒一が固まる。
暁は普通だった。
本気でそう思っているだけ特別な意味はない。
少なくとも本人はそう思っている。
「そうか」
恒一はそれだけ返した。
なぜか少し恥ずかしかったから。
夜。
寝る時間。
「じゃあおやすみ」
「うん」
暁は部屋を出る……はずだった。
十分後。
コンコン。
「入れ」
ドアが開く。
暁だった。
枕を持っている。
「何してる」
「様子を見る」
「帰れ」
「断る」
即答だった。
結局暁は部屋の床へ布団を敷いた。
「おい」
「何かあったらすぐ分かる」
理屈は分かる。
だがそこまでしなくてもいいと思う。
しかし暁は本気だった。
「おやすみ」
そう言って横になる。
恒一はため息を吐いた。
そして少しだけ笑う。
こんな風に心配されるのも悪くない。
そう思ってしまった。
一方布団へ入った暁は少し安心していた。
同じ部屋にいる。それだけでなぜか落ち着いた。
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