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妖怪と契約させられた人間  作者: 東海林


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44/63

44話

その日の夜。


恒一は自室でゲームをしていた。

休日も終わりに近い。

明日から学校だと思うと少し憂鬱だった。


コンコン。


聞き慣れたノック。


「入れ」


ドアが開く。


暁だった。

もう説明もいらない。

最近は毎日のように来る。


「どうした」


「特に用事はない」


「なら来るな」


「断る」


即答だった。

暁は当然のように部屋へ入り、床に座る。

恒一ももう気にしない。


これが日常だった。

しばらくゲームをしていると暁がぽつりと言った。


「今日は楽しかった」


「服買っただけだろ」


「そうだな」


だがそれだけだったのに楽しかった。

理由は分からない。

恒一が一緒だったからかもしれない。

そこまではまだ考えられなかった。


その時だった、ピリッ。


空気が震えた。

恒一も暁も同時に顔を上げる。


「妖気か」


「近い」


暁の表情が変わる。

窓の外、明らかに異常な気配が漂っていた。

しかもこちらへ向かって来ている。


「行くぞ」


「うん」


二人はすぐに家を飛び出した。

夜の住宅街、人気はない。

街灯だけが道を照らしている。


その先、三つの影が立っていた。

人型の妖怪。


見た目は普通の人間に近い。

だが纏う妖気は強い。

下級ではない。


「夜行衆か」


暁が呟く。

相手が笑った。


「正解」


男の妖怪だった。


「白鬼様に会いに来ました」


「帰れ」


暁が即答する。

だが妖怪たちは動かなかった。


「上から命令されてるんですよ」


「連れて来いって」


「断る」


「でしょうね」


その瞬間、妖怪たちの妖気が膨れ上がった。

戦闘開始だった。

恒一も術符を構える。

だが違和感があった。


妖怪たちの視線。

見ているのは暁ではない。

恒一だった。

嫌な予感がした。


そして当たった。


「神谷恒一!」


一体が突っ込んでくる。

狙いは恒一。


「っ!」


恒一が回避する。

地面が砕ける。

威力は高い。


普通の人間なら即死だった。


「おい」


暁の声が低くなる。

妖怪たちは笑った。


「白鬼様は動くな」


「こっちの狙いは契約者だ」


「そいつを殺せば面白いことになる」


静寂。

空気が変わる。

恒一も気付いた。

妖怪たちも気付いた。


そして少し離れたビルの上。

玲司も見ていた。


「あーあ」


楽しそうに笑う。


「言っちゃった」


暁は無言だった。

だが周囲の妖気が膨れ上がる。

夜の空気が震える。


地面が軋む。

妖怪たちの顔色が変わった。


「な」


「おい」


「待て」


遅かった。

暁が一歩前へ出る。

その瞳は冷たい。

かつて白鬼と呼ばれた頃の色だった。


「今」


小さく呟く。


「殺すと言ったか」


妖怪たちが後退る。

本能が警告していた。


危険、逃げろ。

勝てない。

だがもう遅い。


次の瞬間、轟音。

暁が消えた。

そして一体目が吹き飛ぶ。

建物を三つ突き破りながら消えた。


二体目、反応すら出来なかった。

一撃。


地面へ叩き付けられる。


三体目、恐怖で動けない。


「待っ」


言い終わる前に地面へ沈んだ。


静寂。

数秒前までの戦闘が嘘のようだった。

恒一も固まる。

玲司も少し驚いていた。


「これは予想以上だな」


夜行衆の妖怪たちは全滅。

誰も立ち上がれない。

暁はその場に立っている。


だが様子がおかしかった。

妖気が止まらない。

溢れ続けている。


白鬼の力。


感情に引っ張られている。


「暁」


恒一が呼ぶ。

反応がない。


「暁」


もう一度呼ぶ。


数秒後ゆっくり振り向く。


その瞳、冷たい白鬼の瞳。

だが恒一を見ると少し揺れた。


「……恒一」


「落ち着け」


「……」


「俺は無事だ」


暁は黙る。

そしてゆっくり妖気が収まっていく。



数十秒後。

ようやく元の暁へ戻った。


静かな夜。

玲司が屋上から降りてくる。


「驚いた」


本当に楽しそうだった。


「初めて見たよ」


「何を」


恒一が聞く。

玲司は暁を見る。


そして笑った。


「白鬼が怒るところ」


暁は黙る。

玲司は続けた。


「昔は何も感じなかった」


「誰が傷付こうと」


「誰が死のうと」


「白鬼は動かなかった」


恒一は驚く。

そんな姿は想像できない。

今の暁からは。


「でも今は違う」


玲司が言う。


「神谷恒一のことになると怒るんだな」


暁は何も言わない。

だが否定もしなかった。

その様子を見て玲司は満足そうに笑った。


「やっぱり面白い」


その言葉だけ残し夜の闇へ消えていった。


帰り道。

恒一と暁は並んで歩く。

しばらく無言。


そして恒一が言った。


「ありがとな」


暁が見る。


「助けてくれて」


数秒、暁は考える。

そして。


「当然だ」


と答えた。

迷いはなかった。

恒一が危険だった。


だから助けた。


それだけそれだけのはずなのになぜあんなに怒ったのか。

その理由だけはまだ自分でも分からなかった。

もし「面白かった」「続き読みたい」と思ってもらえたら、ブックマークや評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)してもらえるとめちゃくちゃ嬉しいです!次の更新のやる気になります。

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