43話
日曜日、朝。
恒一はソファで寝転がりながらスマホを見ている。
暁は隣で本を読んでいた。
静かだった。
「暇だな」
恒一が呟く。
「そうだな」
暁も答える。
するとふと暁が顔を上げた。
「服」
「ん?」
「買う」
恒一は少し驚いた。
暁からそんなことを言い出すのは珍しい。
「服欲しいのか?」
「今のでも問題はない」
「じゃあ何で」
暁は少し考えた。
そして。
「彩音が言っていた」
嫌な予感がした。
「何て?」
「もっと年頃らしい服を着ろと」
恒一は納得した。
確かに暁は服に無頓着だ。
制服、家着、動きやすい服。
そのくらいしか着ない。
「じゃあ行くか」
「うん」
数十分後。
ショッピングモール。
休日ということもあり人が多い。
恒一は少し後悔していた。
人混みは苦手だった。
一方、暁は周囲を見回している。
珍しく興味がありそうだった。
「どこから見る?」
「分からない」
予想通りだった。
結局、適当に服屋へ入る。
女性向けの店。
恒一は場違い感が凄かった。
「俺いる必要あるか?」
「ある」
即答だった。
「何で」
「分からない」
そう言いながら店内を歩く。
完全に無意識だった。
ただ恒一がいると安心する。
それだけだった。
しばらくして店員が近付いてきた。
笑顔の女性だった。
「お二人はお買い物ですか?」
「はい」
恒一が答える。
「彼女さんのお洋服ですか?」
静寂。
恒一が固まる。
暁も固まる。
数秒。
「違います」
恒一が答えた。
店員は少し慌てる。
「あ、ごめんなさい!」
「いえ」
普通ならそこで終わる。
だが暁はまだ固まっていた。
彼女という単語が頭の中を回っている。
恋人、付き合う、好きな人。
彩音、葛葉、玲司。
最近聞いた言葉まで浮かぶ。
「暁?」
恒一が呼ぶ。
「ん」
ようやく戻ってきた。
「大丈夫か」
「問題ない」
だが少しだけ顔が赤い。
本人は気付いていない。
結局、何着か試着することになった。
暁が試着室へ入る。
数分後。
カーテンが開いた。
白いワンピース姿だった。
恒一は少し驚く。
普段と印象が違う。
「どうだ」
暁が聞く。
「似合うな」
素直な感想だった。
その瞬間暁が少しだけ目を瞬く。
そして。
「そうか」
と言った。
だが内心は妙に嬉しかった。
彩音に褒められた時より。
葛葉に褒められた時より。
ずっと店員も笑っている。
「彼氏さんもそう言ってますし」
再び静寂。
「違います」
恒一が即答した。
店員がまた謝る。
暁はまた固まる。
何故か同じことを二回言われた。
帰り道。
買い物袋を持ちながら歩く。
夕方の風が少し涼しい。
「良かったな」
恒一が言う。
「うん」
珍しく短い返事だった。
何か考えているらしい。
「どうした」
「別に」
嘘だった。
頭の中では、彼女、恋人、好き。
そんな言葉が回り続けている。
「変なやつだな」
恒一が笑う。
その笑顔を見る。
すると少しだけ安心した。
帰宅し夕飯を食べる。
風呂に入る、夜。
恒一がテレビを見ていると暁が新しく買った服を見ていた。
しばらくしてぽつりと呟く。
「恒一」
「ん?」
「似合っていたか」
恒一は少し笑った。
「だから昼に言っただろ」
「もう一回聞きたかった」
珍しいことを言う。
恒一は首を傾げながらも答えた。
「似合ってたよ」
その言葉に暁は小さく頷いた。
そして少しだけ本当に少しだけ嬉しそうに笑った。
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