38話
文化祭が終わった翌週の月曜日
学校はいつもの日常へ戻っていた。
恒一は机に突っ伏している。
「眠い」
「いつも通りだな」
鬼塚が呆れたように言う。
「文化祭の片付け疲れだ」
「絶対違う」
そんな会話をしているとチャイムが鳴る。
授業開始、平和だった。
少なくとも昼までは。
昼休み、屋上。
いつものメンバーが集まっている。
彩音は相変わらず機嫌が良い。
「そういえば」
弁当を食べながら言う。
「神谷くん王子様だったね」
「その話はやめろ」
「優勝おめでとう」
「やめろ」
鬼塚まで笑い始める。
氷室は無言で弁当を食べている。
そして暁も無言だった。
「暁さんはどう思う?」
彩音が聞く。
「何がだ」
「神谷くんの王子様」
「似合っていた」
即答だった。
恒一が吹き出す。
「お前まで言うのか」
「事実だ」
真顔だった。
だから余計に困る。
放課後。
委員会や部活の生徒が残る中。
恒一と暁はいつも通り帰路についていた。
夕焼け、少し冷たい風、平和な帰り道。
「静かだな」
恒一が言う。
「そうか」
「今日は事件もない」
「良いことだ」
確かにそうだった。
妖怪も出ない。
協会も来ない。
珍しく平和である。
しばらく歩く。
すると暁がぽつりと言った。
「恒一」
「ん?」
「文化祭は楽しかったか」
珍しい質問だった。
「普通だな」
「そうか」
「お前は?」
暁は少し考える。
本当に少し。
そして。
「楽しかった」
と答えた。
恒一は少し驚いた。
「珍しいな」
「そうか」
「お前がそういうこと言うの」
暁は考える。
文化祭、準備、喫茶店、帰り道、恒一。
思い返してみる。
「悪くなかった」
そう言った。
恒一は少し笑った。
「なら良かった」
その笑顔を見て暁は少しだけ胸の奥が温かくなる。
理由は分からない。
最近ずっとそうだった。
家へ帰る途中商店街を通る。
すると小さな雑貨屋の前で暁が足を止めた。
「どうした」
恒一が振り返る。
暁は店先を見ていた。
そこには白い狐のストラップが置かれていた。
「欲しいのか?」
「いや」
否定するだが視線は離れない。
恒一は数秒考えた。
そして店へ入る。
「恒一?」
数分後。
店から出てくる。
手には小さな袋。
「ほら」
暁へ渡した。
「何だ」
「さっき見てただろ」
暁が袋を開ける。
中には白い狐のストラップ。
数秒、本当に数秒。
暁が固まった。
「……」
「いらないなら返せ」
「いる」
即答だった。
恒一が笑う。
「そうか」
暁はストラップを見る。
小さな狐、特別高価でもない。
ただのお土産みたいな物。
なのになぜか嬉しかった。
理由は分からない。
本当に分からない。
家に帰る。
夕飯、風呂、テレビ。
そして夜。
恒一が自室でゲームをしていると。
コンコン。
ノック。
「入れ」
ドアが開く。
暁だった。
最近の定位置である。
「どうした」
「別に」
そう言いながら部屋へ入る。
そして今日はいつもと違った。
手に何か持っている。
昼のストラップだった。
「付けたのか」
「うん」
スマホに付いている。
暁は少しだけそれを見る。
そして。
「ありがとう」
と言った。
恒一が止まる。
「珍しいな」
「何がだ」
「素直に礼を言うの」
暁は少し考えた。
そして。
「嬉しかったから」
と答えた。
静かな部屋。
恒一は少しだけ目を丸くした。
そんな言葉を聞くのは初めてだった。
暁自身も気付いていない。
少しずつ本当に少しずつ昔の白鬼にはなかった感情が増えていることに。
そしてそのほとんどが神谷恒一と関係していることに。
もし「面白かった」「続き読みたい」と思ってもらえたら、ブックマークや評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)してもらえるとめちゃくちゃ嬉しいです!次の更新のやる気になります。




