34話
文化祭まで残り二週間。
準備は順調に進んでいた。
教室では机を移動したり、看板の案を考えたりと慌ただしい。
恒一もそれなりに働いていた。
「神谷くん」
女子の声がする。
振り返るとクラスメイトの佐伯だった。
「ん?」
「このデザインどう思う?」
「いいんじゃないか」
「ほんと?」
「俺はそういうの詳しくないけど」
「それでも参考になるよ」
そんな他愛ない会話。
別に特別なことではない。
文化祭準備中ならよくあることだ。
だが教室の反対側。
暁はその様子を見ていた。
「暁さん?」
クラスメイトが声を掛ける。
「こっちの飾りなんだけど──」
「後で見る」
珍しい返答だった。
いつもなら普通に対応する。
しかし視線は恒一の方へ向いている。
「……」
少し面白くない。
理由は分からないだが面白くない。
その時、佐伯が笑った。
恒一も少し笑った。
それを見た瞬間。
さらに面白くなくなった。
「暁さん」
後ろから彩音が現れる。
「怖い顔してる」
「していない」
「してる」
即答だった。
「していない」
「してる」
しばらく続いた。
結局、彩音が勝った。
「何でそんな不機嫌なの?」
「不機嫌ではない」
「神谷くん見てたよね?」
「見ていない」
嘘だった。
彩音は確信した。
完全に嫉妬である。
本人だけが気付いていない。
昼休み、屋上。
いつものメンバー。
恒一は購買で買ったパンを食べている。
鬼塚はスマホを見ている。
氷室は珍しく寝ている。
彩音は楽しそうだった。
「神谷くん」
「何だ」
「モテるね」
「急に何だ」
「クラスの女子と仲良さそうだったじゃん」
「文化祭準備だろ」
「へぇ」
彩音が暁を見る。
暁は無言で弁当を食べていた。
だが少しだけ箸の動きが早い。
「暁さんはどう思う?」
「何がだ」
「神谷くんがモテること」
暁は考える。
数秒。
そして。
「別に」
と答えた。
彩音は吹き出しそうになった。
絶対に別にじゃない。
鬼塚も気付いている。
氷室も気付いている。
恒一だけ気付いていない。
放課後。
文化祭準備の続き。
恒一は看板の色塗りをしていた。
そこへ佐伯がやって来る。
「神谷くん」
「ん?」
「ちょっと手貸して」
「いいぞ」
立ち上がる。
その瞬間、反対側の席から椅子を引く音がした。
ガタン。
全員が見る。
暁だった。
「どうした?」
恒一が聞く。
「私も行く」
「何で?」
「手伝う」
恒一は首を傾げる。
別に二人で十分だと思う。
だが暁は当然のようについて来た。
佐伯も少し困惑していた。
結果、三人で作業することになった。
彩音は遠くから見ながら机に突っ伏した。
「もう駄目だこれ」
鬼塚が笑う。
「面白いからいいだろ」
「面白いけどさぁ」
放課後の帰り道。
恒一と暁。
いつもの二人。
夕日が差している。
「今日はやたら手伝ってたな」
恒一が言う。
「そうか」
「珍しいと思った」
「暇だった」
嘘だった。
だが本人も理由を説明できない。
「ふーん」
恒一は特に気にしない。
しばらく歩く。
すると向こうから女子二人組がやって来た。
同じ学校の生徒だ。
「あ、神谷くん」
「おう」
軽く挨拶。
それだけ本当にそれだけだった。
だが暁は少しだけ恒一との距離を縮めた。
肩が触れるくらい。
無意識だった。
女子たちは気付く。
恒一は気付かない。
「じゃあまたね」
「ああ」
女子たちが去る。
その後、暁はしばらく無言だった。
家へ帰る。
夕飯を食べる。
テレビを見る。
いつもの日常。
夜。
恒一がソファに座っていると隣へ暁が座る。
しかも今日は少し近い。
「どうした」
「何がだ」
「近くないか」
暁は少し考えた。
そして。
「そうか?」
と言った。
本人は本気だった。
だが恒一から見ても近い。
彩音が見たら大騒ぎしている。
そんな距離だった。
暁はテレビを見ながら思う。
今日も少し嫌だった。
恒一が他の女子と話しているのが理由はまだ分からない。
だが少なくともこうして隣にいると落ち着いた。




