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妖怪と契約させられた人間  作者: 東海林


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31/47

31話

朝。


神谷恒一が目を覚ます。

時計を見る、午前六時半。

いつも通りの時間だった。

ベッドから起き上がり、軽く伸びをする。


そして部屋を出る。

すると台所から良い匂いがしていた。


「起きたか」


聞き慣れた声。

暁だった。


エプロン姿で朝食を作っている。

今ではすっかり見慣れた光景だ。


「おはよう」


「おはよう」


自然に挨拶を交わす。

初めて会った頃なら考えられない。

暁の方から挨拶を返すようになるなんて。


「今日は早いな」


「目が覚めた」


「そうか」


いつもの会話。

いつもの朝。


白鬼だとか九尾だとかそんな話が嘘みたいだった。


朝食を食べる。

食器を片付ける。

制服へ着替える。


そして。


「行くか」


「うん」


二人で家を出る。

これも日常、最近では近所の人にも顔を覚えられている。


兄妹だと思われていることも多い。

説明が面倒なので否定していない。


学校までの道。

他愛もない会話をする。


「今日は数学だったか」


「一時間目だな」


「嫌だ」


「珍しいな」


「眠い」


「いつも言ってる」


そんなやり取りをしながら歩く。

そして校門が見えてきた。


「おーい!」


元気な声。

彩音だった。

鬼塚もいる。


「おはよー!」


「おはよう」


「朝から一緒か」


鬼塚が言う。


「毎日だろ」


恒一が答える。


「そうなんだけどさ」


鬼塚は何とも言えない顔をした。

彩音も同じだった。


「何だよ」


「いやー」


彩音が笑う。


「本当に自然だなって」


「何が」


「全部」


意味が分からない。

恒一は首を傾げた。

暁も首を傾げた。


二人とも本気で分かっていない。

彩音は頭を抱えた。


「重症だ」


「何がだよ」


「気にしなくていいよ」


「そうか」


暁が頷く。

彩音はさらに頭を抱えた。



放課後。

いつもの屋上。

氷室も含めた五人で昼食を食べている。


その時だった。


「そういえば」


彩音が突然言った。


「暁さんって神谷くんの家に住んでるんだよね?」


「そうだ」


暁が答える。


「朝も一緒」


「そうだ」


「学校も一緒」


「そうだ」


「帰りも一緒」


「そうだ」


「ご飯も一緒」


「そうだ」


「休日も大体一緒」


「そうだな」


彩音が無言になる。

鬼塚も無言になる。

氷室まで無言になった。


「何だ」


暁が聞く。


「いや」


彩音が言う。


「それ夫婦じゃん」


「違う」


暁が即答した。


「契約者だ」


「そうだけどさぁ!」


「そうだけどそうじゃないんだよ!」


意味が分からない。

恒一も暁も同じ顔だった。


帰り道。


「彩音は変なことを言っていたな」


暁が言う。


「まあ気にするな」


恒一も適当に答える。

実際、今さらだった。

一緒に暮らしているのも一緒に学校へ行くのも帰るのも全部当たり前になっている。


だから特に何も思わない。


「そうだな」


暁も頷く。


そして少しだけ恒一の隣へ近付いた。

本当に少しだけ肩が触れそうな距離。

だが本人は気付いていない。

恒一も気付いていない。


もし彩音が見ていたら騒いでいただろう。



家へ帰る。

夕飯、風呂、テレビ。

いつもの時間。


そして夜。

恒一が自室でゲームをしていると。


コンコン。


ノック。


「入れ」


ドアが開く。

暁だった。


「どうした」


「特に用事はない」


「じゃあ何しに来た」


「何となく」


そう言いながら部屋へ入ってくる。

そして当然のように床へ座る。

恒一はもう何も言わない。


今さらだった。

暁も自然だった。

数か月前なら考えられない光景。

だが今はこれが普通だった。


しばらくゲームを眺めていた暁がぽつりと言う。


「落ち着くな」


「何が?」


「ここ」


恒一は少し笑った。


「自分の家だろ」


「そうだな」


暁も小さく頷く。

そして少しだけ嬉しそうに目を細めた。

本人は気付いていない。


だが白鬼だった頃には決して手に入らなかったものを今の暁は確かに手に入れていた。

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