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妖怪と契約させられた人間  作者: 東海林


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29話

協会支部の前。

葛葉と暁が向かい合う。

周囲には協会の陰陽師たち。


氷室や鬼塚も戦闘態勢に入っていた。

だが誰も動けない。

目の前の存在が規格外すぎた。


九尾の妖狐、葛葉。

ただそこに立っているだけで空気が重い。


「帰ろう」


葛葉はもう一度言った。

穏やかな声だった。

本当に友人を迎えに来たような口調。


「断る」


暁は即答した。

葛葉が小さく目を細める。


「理由を聞いても?」


「帰る理由がない」


「ここがお前の居場所じゃない」


「そうか」


「そうだよ」


葛葉は少し寂しそうに笑う。


「お前は白鬼だ」


「妖怪たちの王だった」


「最強だった」


「皆がお前を必要としていた」


暁は黙って聞いている。

しかし表情は変わらない。


「知らない」


結局その一言だった。

葛葉がため息を吐く。


「本当に変わったね」


その時だった。

後方から別の声が聞こえる。


「変わったんじゃない」


全員が振り返る、雷牙だった。

建物の屋上に立っている。


「よう」


鬼塚が顔をしかめる。


「増えたぞ」


「最悪だな」


氷室も同意だった。

最悪である。


九尾と鬼族の怪物。

二人同時とか聞いていない。


雷牙は屋上から飛び降りる。

着地だけで地面が砕けた。

協会職員たちの顔が青くなる。


しかし当人たちは全く気にしていない。


「葛葉」


「遅かったね」


「面倒だった」


そんな会話をしている。

まるで世間話だった。


恒一は気付く。

この二人、仲が悪くない。

むしろ長い付き合いだ。

そして葛葉が言った。


「そろそろ説明するべきかな」


「何を」


暁が聞く。

葛葉は静かに答える。


「白鬼計画」


空気が変わった。

紫苑が表情を硬くする。

どうやら知っているらしい。


「昔」


葛葉が話し始める。


「白鬼は強すぎた」


「誰よりも」


「何よりも」


「だから皆がお前に頼った」


映像が浮かぶ。

幻術だろうか。

空中に過去の景色が映し出される。


若い頃の白鬼、戦場。

妖怪たち。

陰陽師たち。

巨大な怪物。


その全てをたった一人で倒している。

恒一ですら理解した。

異常だ、これは確かに異常だった。


「お前がいるだけで戦争が終わった」


葛葉が言う。


「お前がいるだけで国が守られた」


「だから」


「皆がお前を必要とした」


だが映像が変わる。

今度は傷だらけの白鬼。

一人で戦っている。


その背中には誰もいない。


「強すぎたから」


葛葉が続ける。


「誰も隣に立てなかった」


静かな声だった。


「そして」


雷牙が口を開く。


「最後に壊れた」


映像が消える。


「違う」


紫苑が言った。

全員が見る。


「白鬼様は壊れていない」


雷牙が目を細める。


「そうだな」


否定しなかった。


「だから余計に面倒だった」


暁は黙っている。

そして葛葉が最後の真実を告げた。


「封印は罰じゃない」


「白鬼自身が選んだ」


恒一の目が見開く。


思い出した記憶と一致する。


『分かった』


あの言葉。


「お前は自分で封印を受け入れた」


葛葉が言う。


「そして」


「記憶を封じた」


「力を封じた」


「人格すら封じた」


静寂。


「なぜ」


暁が聞く。


葛葉は悲しそうに笑った。


「忘れたかったからだ」


その瞬間、頭痛。

暁が顔を押さえる。


「っ……!」


大量の映像。

大量の記憶。


戦場、死、血、叫び、孤独。

何百年もの記憶が流れ込む。


恒一が駆け寄る。


「暁!」


暁が顔を上げる。

その瞳。

一瞬だけいつもの暁ではなかった。


冷たい。

あまりにも冷たい。

白鬼、そのものだった。


全員が息を呑む。

だが次の瞬間、その瞳が揺れる。


「恒一」


呼んだ。

恒一の名前を白鬼ではなく暁として。

葛葉が小さく呟く。


「なるほど」


雷牙も笑った。


「そういうことか」


二人は理解した。

今の暁には昔の白鬼にはなかったものがある。

それが神谷恒一だった。

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