28話
翌朝。
恒一が目を覚ます。
見慣れた天井。
そして妙に近い銀髪。
「……」
嫌な予感がした。
ゆっくり視線を下げる。
暁がいた。
しかも腕を抱えている。
まただった。
最近本当に多い。
「暁」
「ん……」
珍しく寝起きの声だった。
ゆっくり目を開く。
数秒、見つめ合う。
「おはよう」
「まず説明しろ」
「分からない」
いつものだった。
リビングへ向かう。
そこには紫苑がいた。
朝食を作っている。
なぜ客が朝食を作っているのかは考えないことにした。
「おはようございます」
「ああ」
「白鬼様、おはようございます」
「おはよう」
平和な朝だった。
本当にその時までは。
学校
昼休み、屋上。
いつものメンバーが集まっていた。
彩音がニヤニヤしている。
「昨日どうだった?」
「普通だった」
「本当に?」
「本当に」
「つまらない」
何を期待していたんだ。
その時、氷室のスマホが鳴った。
着信ではない。
協会からの連絡らしい。
だが画面を見た瞬間。
氷室の顔色が変わった。
「どうした」
鬼塚が聞く。
氷室は数秒黙る。
そして。
「最悪だ」
と呟いた。
放課後、
協会支部へ来ていた。
珍しく全員呼び出しである。
会議室。
重い空気。
そしてスクリーンに映し出された写真。
そこにいたのは見覚えのある男だった。
「雷牙」
紫苑が低く呟く。
協会職員が説明を始める。
「昨夜」
「関東各地で結界が複数破壊されました」
「被害は軽微です」
「ですが問題はそこではありません」
画面が切り替わる。
古い資料、古文書、写真大量のデータ。
「雷牙は鬼族です」
「そして」
「かつて白鬼の側近でした」
恒一が眉をひそめる。
側近。
紫苑と同じ立場らしい。
「白鬼には三人の側近がいました」
「夜刀神紫苑」
「鬼族の雷牙」
そして職員が最後の名前を口にする。
「天狐・葛葉」
その瞬間、紫苑の表情が変わった。
「まさか……」
嫌な予感。
全員が同じことを思った。
その時だった。
ドォォォォォン!!
建物全体が揺れる。
警報が鳴り響く。
赤いランプ。
騒がしい館内。
「敵襲!!」
誰かが叫んだ。
またか、恒一は思った。
最近本当に多い。
職員たちが慌ただしく動く。
氷室が窓へ向かう。
そして固まった。
「嘘だろ……」
全員が外を見る。
そこには一人の男が立っていた。
黒い和服、長い銀髪。
整った顔立ち。
美しい。
そう表現するしかない容姿。
そして背後に揺れる九本の尾。
「葛葉」
紫苑が呟く。
男は静かに微笑んだ。
「久しぶりだね」
その視線はまっすぐ暁へ向いていた。
「白鬼」
優しい声だった。
雷牙と違う。
敵意もない。
怒りもない。
ただ懐かしむような声。
しかし暁の返答は変わらない。
「誰だ」
葛葉が固まった。
数秒。
十秒。
さらに数秒。
そして。
「本当に覚えていないんだね……」
かなりショックを受けていた。
恒一は少し申し訳なくなった。
最近こればかりである。
葛葉は苦笑する。
「酷いなあ」
「四百年以上探したのに」
「忘れられてるなんて」
紫苑が小さく頷いた。
「私も同じ目に遭いました」
「だろうね」
妙な連帯感が生まれていた。
だが次の瞬間。
空気が変わる。
葛葉の笑顔が消える。
「でも」
その声は静かだった。
「そろそろ返してもらうよ」
妖気が溢れる。
九尾。
雷牙とは違う圧力。
もっと静かでもっと恐ろしい。
協会の結界が軋む。
職員たちの顔色が変わる。
「まずい」
氷室が呟く。
「雷牙より強い」
静寂。
葛葉はゆっくり手を伸ばす。
「白鬼」
「帰ろう」
優しい声だった。
だからこそ恐ろしかった。
そして暁は少しだけ恒一を見た。
その仕草を見た瞬間。
紫苑と葛葉。
二人の表情が同時に固まった。
昔の白鬼なら絶対にしなかった行動だったからだ。
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