24話
土曜日、午前九時。
神谷恒一は駅前に立っていた。
休日である。
本来なら家でだらだらしていたかった。
だが。
「神谷くーん!」
元気な声が飛んできた。
霧島彩音だった。
その時点で嫌な予感しかしなかった。
「お前か」
「お前とは失礼だなー」
「で、何で集められたんだ」
彩音は満面の笑みを浮かべる。
「水族館!」
「帰る」
「待て」
即座に鬼塚に肩を掴まれた。
結局集まったのは、神谷恒一、暁、霧島彩音、夜刀神紫苑の四人だった。
氷室は協会の仕事らしい。
鬼塚も途中で帰るらしい。
「白鬼様」
紫苑が近付く。
「今日は私が案内します」
「そうか」
暁は素直に頷く。
すると反対側から彩音が暁の腕を引っ張る。
「まずはイルカショー見よ!」
「分かった」
結果、紫苑と彩音が微妙に張り合う形になった。
恒一はため息を吐く。
面倒そうだった。
入館。
巨大な水槽。
魚の群れ。
青い光。
「おお……」
恒一が思わず声を漏らす。
やはり迫力がある。
隣を見る。
暁が止まっていた。
じっと水槽を見ている。
「どうした」
「綺麗だ」
本当に珍しい反応だった。
普段の無表情ではない。
少しだけ目を輝かせている。
「そんなに気に入ったか」
「うん」
自然に出た返事だった。
本人も気付いたらしい。
「……」
少し固まる。
恒一が笑う。
「好きなんだな」
「嫌いではない」
全然否定になっていなかった。
その後、館内を回る。
ペンギン、アザラシなど色々いた。
そしてクラゲコーナー。
暁が完全に動かなくなった。
「おい」
反応がない。
「暁」
「……」
見ている。
ひたすら見ている。
漂うクラゲを。
「気に入ったのか」
「綺麗だ」
二回目だった。
相当気に入ったらしい。
彩音が写真を撮っていた。
絶対後で使う。
間違いない。
昼。
フードコート。
全員で昼食。
「神谷くん」
彩音がニヤニヤしている。
「何だ」
「どっちが可愛い?」
「何が」
「暁さんと紫苑ちゃん」
恒一は無言でコーヒーを飲んだ。
面倒な質問だった。
「答えろ」
「嫌だ」
「逃げた」
紫苑が少し恒一を睨んだ。
暁は意味が分かっていなかった。
平和だった。
その時突然、館内の照明が消えた。
「え?」
ざわつく人々。
停電?
違う。
暁が立ち上がった。
「妖気」
空気が変わる。
恒一も察する。
またか最近多すぎる。
館内の奥、水槽の向こう側。
黒い影が立っていた。
人間ではない。
巨大な角。
異様な妖気。
そして赤い瞳。
「見つけた」
低い声。
その視線はまっすぐ暁へ向いていた。
「白鬼」
周囲の客には見えていない。
結界。
まただ。
「面倒だな」
暁が呟く。
すると黒い影が笑った。
「久しぶりだな」
その声、どこか懐かしそうだった。
だが暁は首を傾げる。
「誰だ」
相手が固まった。
数秒後。
「覚えていないのか……」
本気でショックを受けていた。
恒一は少しだけ同情した。
最近これ多いな。
そして妖気が膨れ上がる。
次の瞬間、水族館全体が揺れた。
新たな敵、白鬼を知る者。
物語はまた少しずつ動き始める。
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