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妖怪と契約させられた人間  作者: 東海林


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21/23

21話

夏休み前。

朝のホームルーム。


教室はいつも以上に騒がしかった。

理由は簡単だ。


「転校生だってよ」


「この時期に?」


「しかも女らしいぞ」


男子たちが盛り上がっている。

恒一は興味なさそうに窓の外を見ていた。

隣の席では暁が本を読んでいる。


いつもの朝だった。


「神谷くんは気にならないの?」


彩音が後ろから聞いてくる。


「別に」


「つまらない男だな」


鬼塚も混ざってきた。


「そんなことより眠い」


「いつも言ってるな」


そんな会話をしていると、担任が教室へ入ってきた。

教室が静かになる。


「今日は転校生を紹介する」


おおーっ、と歓声が上がる。

担任は軽くため息を吐きながら教室の外へ視線を向けた。


「入ってくれ」


ドアが開く。

そして教室の空気が変わった。


黒髪、長い髪、整った顔立ち。

どこか和風の雰囲気を持つ少女。

美人だった。


かなり。


「夜刀神紫苑です」


静かな声。

落ち着いた口調。


教室の男子たちが一斉にざわつく。

しかし次の瞬間だった。

紫苑の視線が教室内を動く。


そして暁を見つけた。


「――っ」


一瞬、本当に一瞬だけ。

その表情が崩れた。


驚愕。


信じられないものを見るような顔。

そして誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。


「白鬼様……」


暁は本から顔を上げる。

視線が交差する。


数秒、沈黙。

だが暁は首を傾げた。


「誰だ」


教室が静まり返る。

紫苑も固まった。


「……え?」


本気で分からないらしい。

恒一は嫌な予感がした。


ものすごく。


「と、とりあえず席は神谷の後ろだ」


担任が言う。

教室の空気が動き出す。

紫苑は無言で席へ向かった。

だがその視線だけはずっと暁へ向けられていた。




休み時間。

案の定。


紫苑の周りには人が集まっていた。

質問攻めである。

だが紫苑は適当に受け流している。


興味がないのだろう。


そして、昼休み、屋上。

いつものメンバーが集まっていた。

恒一、暁、彩音、鬼塚、氷室。

そこへ。


「失礼する」


紫苑が現れた。

全員が振り向く。


そして紫苑は一直線に暁の前まで歩く。


「お久しぶりです」


深々と頭を下げた。


「?」


暁が首を傾げる。


「誰だ」


二回目だった。

紫苑が少し傷ついた顔をした。


「覚えて……いらっしゃらないのですか」


「知らない」


即答。

容赦がなかった。

紫苑は小さく息を吐く。


「私は夜刀神紫苑」


「四百年前より白鬼様に仕えていた者です」


屋上が静かになる。

彩音が固まる。

鬼塚も固まる。


氷室だけは予想していたような顔だった。


「やっぱりか」


と呟いている。


「四百年前?」


恒一が聞く。

紫苑が頷く。


「はい」


「私は白鬼様の従者でした」


「妖怪か」


「そうです」


さらっととんでもないことを言った。

暁はしばらく考え込む。


そして。


「思い出せない」


と答えた。

紫苑の肩が少し落ちる。

だが怒ったりはしなかった。


むしろどこか悲しそうだった。


「そうですか……」


その顔を見て恒一は少し気になった。

本当に慕っていたのだろう。


その時紫苑の視線が恒一へ向く。

空気が変わった。


冷たい。

明らかな敵意。


「あなたが神谷恒一ですか」


「そうだけど」


「なるほど」


嫌な言い方だった。

すごく。


「何か問題あるか?」


恒一が聞く。

紫苑は静かに言った。


「なぜ人間が白鬼様の隣にいるのですか」


彩音が頭を抱えた。

始まった。


「契約者だからだ」


暁が答える。


「それだけではありません」


紫苑は即座に否定した。


「白鬼様は昔、人間を信用していなかった」


「だから不自然です」


暁は黙る。

確かに覚えていない。

だから反論もできない。


だが次の瞬間。


「恒一は恒一だ」


暁が言った。

全員が少し驚く。


「?」


紫苑も固まる。


「良い人間だ」


「契約者だ」


「一緒にいる」


それだけだった。

だが十分だった。


恒一は少し照れくさくなる。

彩音はニヤニヤしている。

鬼塚は笑いを堪えている。

氷室は見なかったことにしていた。


紫苑だけが複雑そうな顔をしていた。


白鬼、最強の存在。

誰にも心を開かなかった存在。

そのはずだった。

なのに今の暁は違う。


あまりにも違う。



放課後、校門前。

紫苑は一人で空を見上げていた。

夕日が差している。


その時後ろから声が聞こえた。


「どうだった」


男の声、振り返る。

そこには九条が立っていた。


「……九条」


紫苑が眉をひそめる。


「久しぶりだな」


九条は笑う。


「それで?」


「白鬼はどうだった」


紫苑は少し黙る。

そして小さく答えた。


「別人です」


九条は笑った。

まるでそれを予想していたかのように。


「そうだろうな」


「だから面白いんだ」


紫苑は再び夕空を見る。

そして小さく呟いた。


「白鬼様……」


その声には懐かしさと寂しさが混じっていた。

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