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妖怪と契約させられた人間  作者: 東海林


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19/23

19話

妖狐襲来から二日。

協会は大騒ぎだった。


学校を襲撃した上級妖狐。

その目的が暁だったこと。

そして九条の存在。

問題は山積みだった。


だが当の本人たちは――意外といつも通りだった。


「神谷くん、最近狙われすぎじゃない?」


昼休み。

屋上で彩音が言う。


「俺のせいじゃないだろ」


「でも中心にいるの神谷くんだよね」


「否定できないのが嫌だな……」


鬼塚が笑う。

氷室は頭を抱えていた。

暁はいつものように恒一の隣に座っている。


最近はもう誰も突っ込まなくなった。


放課後になり、恒一と暁は家へ帰る。

夕飯を食べ、風呂に入り、普段通りの時間が流れた。


だがその夜。

恒一はなかなか眠れなかった。


暑さのせいではない。

妖狐が言った言葉が頭に残っていた。

お前は人間の隣にいていい存在ではない


そんなことを考えていると、部屋のドアが小さくノックされた。


コンコン。


「ん?」


時計を見る。


午前一時。

こんな時間に来る相手は一人しかいない。


「開いてるぞ」


ドアが少し開く。

そこにはパジャマ姿の暁が立っていた。

銀色の髪が月明かりに照らされている。


「どうした?」


暁は少し黙る。

そして、


「眠れない」


と答えた。

恒一は思わず目を瞬いた。


「お前が?」


「そうだ」


「妖怪も眠れないとかあるんだな」


「必要ではないが眠ることはある」


そんな説明をしながら部屋へ入ってくる。

そしてベッドの横に座った。


「何かあったのか?」


暁は膝の上で手を組む。

しばらく考えた後、小さく口を開いた。


「分からない」


いつもの答えだった。

だが今回は少し違う。


「最近、思い出すことが増えた」


「記憶か」


頷く。


「戦っていた」


「逃げていた」


「誰かと話していた」


断片的な映像。

夢のように現れては消えるらしい。


「怖いのか?」


恒一が聞く。

暁はしばらく考えた。


「分からない」


また同じ言葉だが続きがあった。


「ただ」


「?」


「今の私が消える気がする」


その声は珍しく弱かった。

恒一は少し驚く。


暁がそんなことを言うのは初めてだった。


「消えないだろ」


「なぜそう言える」


「だってお前はお前だろ」


暁が顔を上げる。

恒一は肩をすくめた。


「昔何してたとか関係ない」


「今ここにいる暁は暁だ」


「……」


「白鬼だろうが何だろうが知らん」


「俺は今のお前しか知らないしな」


静かな沈黙。

窓の外では虫の声が聞こえていた。


やがて暁は小さく呟く。


「そうか」


それだけだった。

だが少しだけ肩の力が抜けたように見えた。


その後もしばらく他愛ない話をした。

学校のこと。

彩音のこと。

鬼塚のこと。

猫の動画のこと。


気付けば一時間近く経っていた。


「そろそろ寝るか」


恒一が言う。

暁は頷いた。


「そうだな」


立ち上がる、部屋を出るそう思った。

だが。


「?」


なぜか動かない。


「どうした」


「……」


数秒。


そして。


「ここにいてもいいか」


と聞いた。

恒一は固まった。


「は?」


「眠れない」


「いや、自分の部屋あるだろ」


「ある」


「じゃあそっちで寝ろよ」


「そうか」


そう言いながらも動かない。

恒一はため息をついた。


「好きにしろ」


「分かった」


返事が早かった。

暁は満足そうに頷く。


そして部屋の床に座った。


「いや床かよ」


「問題ない」


「ベッド使え」


「恒一がいる」


「俺が床で寝るのか?」


「それは駄目だ」


「面倒くさいな!」


結局、暁はベッドの反対側へ、恒一は壁側へ。

妙な距離を空けて寝ることになった。


「……」


「……」


気まずい。

だが暁は平然としている。



数分後。

恒一は眠りに落ちた。


そして翌朝、目を開く。

朝日が差し込んでいた。


「ん……」


まだ眠い。

横を見る。


そして固まった。

暁がいた。

しかもかなり近い。

いつの間にか寝相で移動したらしい。


抱き枕のように腕を抱え込まれていた。


「……」


恒一の脳が停止する。

その瞬間、暁も目を開いた。


数秒。


見つめ合う。


「おはよう」


暁が言った。

まるで何事もなかったかのように。


「いや説明しろ」


「分からない」


「絶対嘘だろ」


だが暁は首を傾げるだけだった。

そしてほんの少しだけ安心したように笑った気がした。



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