14話
妖怪討伐から三日後。
神谷恒一はベッドの上で天井を見ていた。
「……だるい」
風邪だった。
原因は明らかである。
山の中、夕方、怪我。
その後の疲労。
色々重なった結果だ。
熱は三十八度を超えていた。
久しぶりの病人生活だった。
「恒一」
声が聞こえる。
横を見る、暁がいた。
椅子に座っている。
昨日からずっと。
「学校は?」
「休んだ」
「なんで」
「看病」
即答だった。
恒一は頭を抱えた。
「いや行けよ」
「必要ない」
「あるだろ」
「今は恒一の方が重要」
真顔だった。
冗談の気配がない。
そんなやり取りをしていると。
ピンポーン。
インターホンが鳴った。
「出る」
暁が立ち上がる。
数分後。
戻ってきた。
後ろに二人いる。
「お見舞いだよー」
霧島彩音。
「体調はどうだ」
氷室玲司。
予想通りの面子だった。
「神谷くん弱いね」
「うるさい」
彩音が笑う。
氷室は額に手を当てた。
「熱は高いな」
「医者かお前」
「一応知識はある」
便利なやつだった。
すると彩音が周囲を見回す。
そして気づく。
「暁さん」
「なんだ」
「もしかしてずっと見てた?」
「そうだ」
「え」
「昨日から」
彩音が固まった。
「寝たの?」
「寝ていない」
「ご飯は?」
「食べた」
「風呂は?」
「入った」
「神谷くんから離れた?」
「ほとんどない」
彩音が頭を抱えた。
「重い……」
「?」
暁は意味が分からない顔をした。
しばらくして彩音たちは帰ることになった。
「無理するなよ」
氷室が言う。
「分かってる」
「本当にか?」
信用されていなかった。
二人が帰る。
再び静かな家。
恒一は眠気を感じていた。
熱のせいだろう。
「少し寝る」
「分かった」
暁が頷く。
数時間後。
目が覚めた。
時計を見る。
夕方。
少し熱は下がったらしい。
「ん……?」
良い匂いがした。
リビングへ行く。
そこにはエプロン姿の暁がいた。
「何してる」
「調べた」
「何を」
「看病」
そして鍋を指差す。
「お粥だ」
恒一は固まった。
「作ったのか?」
「そうだ」
「どうやって」
「動画」
なるほど現代文明である。
恐る恐る食べる。
一口、二口。
「どうだ」
暁が聞く。
珍しく少し不安そうだった。
恒一は答える。
「美味い」
暁が少しだけ目を見開く。
本当に少しだけ。
「そうか」
それだけ言う。
だがどこか嬉しそうだった。
夜。
熱はだいぶ下がった。
ベッドに戻る。
すると暁が部屋へ入ってきた。
手には冷却シート。
「まだ熱がある」
「そうか」
「貼る」
「自分でできるぞ」
「失敗するかもしれない」
「しないだろ」
だが暁は聞いていなかった。
ぺた。
額に貼る。
満足そうに頷く。
「完了」
「おう」
しばらく沈黙。
静かな夜。
その時、恒一が聞いた。
「なあ」
「なんだ」
「そんなに心配か?」
暁は答えなかった。
数秒、十秒。
考えている。
そして。
「分からない」
いつもの返事。
だが続きがあった。
「ただ」
「?」
「恒一が苦しそうなのは」
言葉が止まる。
珍しく、本当に珍しく。
迷っている。
「嫌だった」
小さな声だった。
恒一は少し驚く。
暁自身も驚いている。
口に出して初めて気づいたようだった。
「そうか」
恒一は笑った。
「ありがとう」
すると暁は数秒固まった。
そして小さく頷く。
「どういたしまして」
少しぎこちない返事だった。
その夜。
恒一は久しぶりによく眠れた。
ベッドの横には椅子。
そこには暁。
本を読みながら座っている。
いつもと同じ光景。
だが少しだけ違う。
契約だからではなく任務だからでもなく。
ただそこにいたかったから。
そんな理由が少しずつ生まれ始めていた。
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