12話
休日、駅前。
神谷恒一と暁は買い物に来ていた。
先週の外出が思った以上に好評だったからだ。
「今日は何を見る?」
恒一が聞く。
「特に決めていない」
「相変わらずだな」
「恒一もだろう」
「それはそう」
そんな他愛ない会話をしながら歩く。
少し前なら考えられない光景だった。
「神谷くん?」
不意に声が聞こえた。
振り向く。
そこにいたのは――
「霧島?」
「やっぱり!」
霧島彩音だった。
私服姿、学校の制服ではない。
少し大人っぽい雰囲気だった。
「買い物?」
「ああ」
「偶然だな」
彩音が笑う。
「暁さんもこんにちは」
「こんにちは」
暁が答える。
そこから自然と会話が始まった。
学校の話。
鬼塚の怪我がだいぶ治った話。
氷室が最近忙しい話。
どうでもいい雑談。
だが恒一と彩音は割と話しやすい。
会話も弾む。
「そういえば神谷くん」
「ん?」
「中間テストの順位見た?」
「あー……見た」
「ひどかったね」
「うるさい」
彩音が笑う。
恒一も苦笑する。
そんな二人を暁は横で見ていた。
「……」
無言。
ただ見ている。
特に何も言わない。
だがどこか落ち着かない。
そんな感覚があった。
数十分後。
彩音が帰ることになった。
「じゃあまた学校で」
「おう」
「暁さんもまた」
「分かった」
彩音は手を振りながら去っていく。
そして二人だけになった。
帰り道。
妙だった。
暁が静かすぎる。
普段から静かではある。
だが今日は違う。
何か考え込んでいる。
「どうした?」
恒一が聞く。
「別に」
即答。
だがどう見ても別にではない。
帰宅後、夕食。
テレビ、風呂。
全部終わった。
だがやはり様子がおかしい。
ソファに座っている。
本を読んでいる。
しかしページが全然進んでいない。
「暁」
「なんだ」
「何かあったか?」
数秒、沈黙。
そして。
「霧島彩音」
という名前が出てきた。
「彩音がどうした?」
恒一が聞く。
暁は少し考える。
言葉を選んでいるようだった。
「仲が良いのか」
「彩音と?」
「そうだ」
「普通じゃないか?」
学校の友人、協会関係者。
それ以上でもそれ以下でもない。
しかし暁は納得していない顔だった。
「よく話していた」
「そりゃ話すだろ」
「そうなのか」
また沈黙。
暁は本を閉じる。
そしてぽつりと言った。
「面白くない」
恒一が固まる。
「え?」
「……」
暁自身も驚いたようだった。
今、自分が何を言ったのか。
理解できていないらしい。
「面白くないって?」
恒一が聞く。
暁は考える。
長い時間。
そして。
「分からない」
と答えた。
予想通りだった。
だが今回は本当に分からないのだろう。
理由が感情が自分自身が。
その夜。
恒一が寝ようとしていると。
コンコン。
ドアが鳴った。
「ん?」
開ける。
そこには暁。
パジャマ姿。
「どうした」
「質問がある」
「なんだ」
暁は真剣な顔だった。
そして。
「嫉妬とは何だ」
と言った。
恒一は吹き出しかけた。
「急にどうした」
「調べていた」
「何を」
「感情」
本当に調べたらしい。
スマホで検索でもしたのだろう。
「嫉妬っていうのはな」
恒一は考える。
説明が難しい。
「誰かを取られそうになったり」
「自分だけじゃなくなったり」
「そういう時に感じる感情だ」
暁は黙って聞いている。
「なるほど」
「理解したか?」
「少し」
そして数秒後。
暁は小さく呟いた。
「面倒だな」
「感情はそんなもんだ」
「合理的ではない」
「そうだな」
「非効率だ」
「そうだな」
「……」
暁は少し考える。
そして。
「嫌いだ」
と結論付けた。
だが恒一は気づかなかった。
部屋を出ていく時、暁がほんの少しだけ安心した顔をしていたことに。
もちろん本人も気づいていない。
自分が感じていたものが嫉妬だということに。
そしてその感情が生まれた理由にも。
まだ気づいていなかった。
もし「面白かった」「続き読みたい」と思ってもらえたら、ブックマークや評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)してもらえるとめちゃくちゃ嬉しいです!次の更新のやる気になります。




