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婚約破棄された未来を見通す才女は、貴族至上主義の国を根元から再構築する  作者: しばゎんゎん


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第4話 第二段階:貴族の分断

崩れ始める時は、いつも静かだ。


誰も気付かないうちに、足元から。


そして、気付いた時には、手遅れ。


「なぜだ、なぜ金が足りぬ!」


王都の一角、豪奢な屋敷の中で怒号が響く。


名門を自称するロベール伯爵家当主は、机を叩きつけた。


「先月まで問題なかったはずだ!なぜ融資が受けられないのだ!」


「そ、それが各商会が一斉に条件を見直し、追加融資を停止しておりまして」


「馬鹿な!ロベール家だぞ!?」


そのロベール家であることこそが問題なのだが、彼は理解していない。


長年、借りては使い、使ってはまた借りる。


その繰り返しで膨れ上がった負債。


それを支えていた信用が、今、切られた。


「では既存の契約は!?既存の契約はさすがに大丈夫だろう?」


「いえ、既存契約についても返済期限の前倒しを求められております」


「なんだと!」


言葉を失う。


当然、返せるはずがない。


だからこそ、狼狽えている。



同じ頃。


別の屋敷では、まったく違う光景が広がっていた。


「追加の融資、感謝いたします」


落ち着いた声音で頭を下げるのは、堅実で知られる子爵家当主。


「いえ。信用に対する当然の対応です。貴殿は堅実であるから安心して融資できる」


商人は淡々と答える。


「今後も、安定した取引をお願いできればと」


「もちろんだ。我々も無理な拡張はせぬ。堅実に積み上げていくことが、結果として利益をもたらすからな」


短い会話。


だがそこには、明確な線が引かれている。


残す者と、落とす者。



王都全体に、じわじわと波紋が広がっていた。


物価は緩やかに上昇。


資金繰りは厳格化。


それだけなら、まだ耐えられた。


だが


「聞いたか? ロベール伯爵家、支払いが滞ったらしいぞ」


「いや、それだけじゃない。裏で不正に資金を流用していたという話だ」


噂が、広がる。


いや、意図的に流されている。


その中心。


薄暗い一室で、私は静かに報告を受けていた。


「第一波、完了です」


「状況は?」


「浪費型貴族の三割が資金繰りに窮し、うち一割はすでに返済不能状態に入っています」


「順調ですね」


想定通り。


「不正の証拠は?」


「帳簿改ざん、横領、架空契約。いずれも裏付け済みです」


「公表は段階的に」


「はい。自発的に露呈したように見せる形で」


頷く。


重要なのは、こちらの意思を悟らせないこと。


「第二王子殿下への連絡は?」


「済ませてあります。然るべき場を整えるとのことです」


「結構」


すべてが、予定通りに進んでいる。




「見事なものだな」


背後からの声。


レオン殿下が、いつものように静かに現れる。


「褒めていただき光栄です」


「褒めているつもりはない」


だがその目は、明らかに評価していた。


「ここまで一気に崩れるとは思わなかった」


「崩したのではありません」


私は首を振る。


「私は、ただ支えを外しただけです」


もともと立っていなかったものが、倒れただけ。


「違いがあるのか?」


「大いに」


私は資料を差し出す。


「こちらをご覧ください」


彼が目を通す。


そこに並ぶのは、貴族たちの負債と不正の一覧。


「これは」


「すべて、以前から存在していた問題です」


ただ、誰も見ようとしなかった。


「それを今、表に出しているだけです」


「なるほどな」


彼は深く息を吐く。


「では、次は?」


「選択の時間です」


私は静かに答える。


「彼らは助けを求めます。王家に、他の貴族に、あらゆる場所に」


「そして?」


「助けられません」


きっぱりと。


「助ければ、同じ腐敗を抱え込むことになる」


「だが、全てを切り捨てれば反発が出る」


「ええ」


「ですので、裏切りを促します」


彼の視線が鋭くなる。


「具体的には?」


「証拠を提示し、取引を持ちかけます」


淡々と説明する。


「不正を認め、協力するなら一部を保護。拒否すれば全面公開」


「仲間を売らせるわけか」


「はい」


簡潔に肯定する。


「貴族社会の結束は、利害で成り立っています」


ならば。


「利害を崩せば、自然と分裂します」


沈黙。


やがて


「徹底しているな」


「中途半端が最も危険ですので」


少しでも情を挟めば、腐敗は残る。


「ただし」


私は付け加える。


「全てを潰すつもりはありません」


「ほう?」


「必要な者は残します」


能力があり、変わる意思がある者。


「そのための救済枠も用意しています」


「例の供給網か」


「ええ」


彼は小さく笑った。


「飴と鞭、か」


「違います」


私は静かに否定する。


「これは、甘さでも厳しさでもありません。ただの選別です」



数日後。


王都に、決定的な噂が流れた。


「王太子殿下の取り巻きの一人が、横領で告発されたらしい」


「いや、それだけじゃない。他にも」


次々と明るみに出る不正。


そして


「申し開きの余地はありません」


ある貴族が、公の場で頭を下げた。


「すべてを認め、処分を受け入れます」


その姿を見て、周囲は理解する。


何かが、おかしい。


これは偶然ではない。


だが、止められない。


すでに流れは出来ている。


「第一の崩壊、完了です」


私は静かに告げる。


「残るは?」


「頂点です」


視線を上げる。


その先にあるのは、王城。


「王太子と、その周辺」


彼らこそが、この構造の象徴。


そして。


「最も、大きく崩れる場所です」


レオン殿下は、ゆっくりと頷いた。


「いよいよだな」


「ええ」


私は微笑む。


わずかに、しかし確実に。


「ここからが、本当の意味での断罪です」

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