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婚約破棄された未来を見通す才女は、貴族至上主義の国を根元から再構築する  作者: しばゎんゎん


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第3話 第一段階:経済の掌握

夜が明ける頃には、もう動いていた。


王城の騒動が収まるより早く。

貴族たちがまだ噂話に興じている、その裏で。


「予定通り、開始します」


私は机上に広げた帳簿から目を離さずに告げる。


場所は王都の一角。


表向きは小さな商会の事務所。


だが実態は、情報と資金の中枢。


「第一段階、資金の固定化を実行してください」


「承知しました、お嬢様」


控えていた男が一礼する。


年配の商人、だがその目は鋭い。


彼はかつて、貴族に潰されかけた商会の主だった。


だからこそ、こちら側にいる。


「具体的には」


私は淡々と指示を重ねる。


「王都主要商会への短期貸付を一斉に引き上げます。

 理由は信用不安。噂はすでに流してありますね?」


「はい。王太子による浪費と王家財政の悪化という形で」


「結構」


 事実だからこそ、よく効く。


「同時に、穀物・塩・鉄の在庫を押さえます」


「買い占めですか?」


「いいえ」


私は首を横に振る。


「先物契約です」


まだ市場に出ていない分を、先に押さえる。


表面上の流通は止めない。だが、未来の供給を握る。


「必需品の価格を緩やかに上昇させます。急騰は避けてください」


「なぜでしょう」


「暴動を起こすためではありません」


一瞬、手を止める。


「不安、を育てるためです。今流している噂に、価格の上昇が伴えば、どうなるのかは明らかでしょう」


急激な変化は敵を警戒させる。


だが、じわじわとした上昇は、気付いた時には逃げ場がない。


「なるほど」


商人が低く唸る。


理解が早いのは助かる。


「次に、貴族への資金供給」


帳簿の別の頁をめくる。


「浪費癖のある家には、あえて貸付を増やしてください」


「絞るのではなく?」


「はい」


静かに頷く。


「彼らは自滅します」


借りられる限り借り、使い切り、返せなくなる。


そこを、一気に回収する。


まさに借金地獄。


「逆に、堅実な家には?」


「信用を与えます」


味方に引き込み、改革の一翼をになってもらう。


「選別を行います」


救う者と、切り捨てる者を。


最初から分けておく必要がある。


「恐ろしいことを、淡々とおっしゃる」


「事実を述べているだけです」


感情は不要。


これはただの、構造の再編だ。


「最後に」


私は顔を上げる。


「帝国側との接続を強化します」


「すでにいくつかの商会とは繋がっておりますが、さらに?」


「ええ」


ここが肝だ。


「レグルス王国の内部流通を、外部に依存させます」


「それは」


 商人の目が見開かれる。


「国の主導権を、外に握らせることになります」


「はい」


 その通り。


「この国は、もはや自律的に回る構造ではありません」


ならば。


「外部の合理的な枠組みに組み込んだ方が、まだ健全です」


静かに言い切る。


しばしの沈黙。


やがて


「承知いたしました」


商人は深く頭を下げた。


「すべて、指示通りに」


扉が閉まる。


室内に静寂が戻る。


「随分と、大胆なことをする」


背後から声。


振り返らずとも分かる。


「ご覧になっていたのですね、殿下」


レオン殿下は壁に寄りかかるように立っていた。


「途中からな」


腕を組み、こちらを見ている。


「一つ確認したい」


「どうぞ」


「これは、崩壊を早めるための策か?」


 核心を突く。


 私は少しだけ考え


「いいえ」


首を横に振った。


「可視化です」


「可視化?」


「はい」


帳簿を閉じる。


「この国の歪みは、すでに存在しています。ですが、まだ見えてはいません」


「それを、誰の目にも明らかにする」


市場に、数字に、形として。


「なるほど」


彼は小さく息を吐いた。


「隠れていた腐敗を、表に出すわけか」


「そうです」


「露呈した問題は、もはや無視できないレベルになっているでしょう」


誰にとっても。


「その時、選択を迫られます」


「変えるか、滅びるか」


「はい」


短く、肯定する。


彼はしばらく黙っていた。


「だが、一つ、懸念がある」


「お聞きします」


「民だ」


やはり、そこを見るか。


「価格が上がれば、最初に苦しむのは平民だ」


「ええ」


 否定はしない。


「対策は?」


「既に」


 私は別の書類を差し出す。


「こちらをご覧ください」


 彼が目を通す。


 そこに書かれているのは


「低価格供給網?」


「はい」


「我々の管理下で、必要な民に対して、必要物資を一定価格で供給します。いわゆるセーフティネットです」


 市場価格が上がる中で、そこだけは安定させる。


「差額は?」


「こちらの資金で補填します」


「赤字になるぞ」


「いえ、先物契約での利益。これを還元します」


即答。


「これは投資です」


一瞬、目を細める。


「信頼という名の」


沈黙。


そして


「君は」


レオン殿下が、ゆっくりと言葉を選ぶ。


「冷酷なのか、慈悲深いのか、分からなくなるな」


私は、わずかに首を傾げる。


「両立し得るものです」


静かに答える。


「切り捨てるべきものは切り捨て、守るべきものは守る」


それだけの話。


「その線引きは?」


「価値です。この国の未来に必要かどうか。」


それがすべて。


彼は、小さく笑った。


「やはり、危険な女だ」


「褒め言葉として受け取っておきます」


私もわずかに微笑む。


窓の外、王都の朝が動き始めていた。


人々はまだ知らない。


今日という日が、静かに、だが、確実に国の構造を変える始まりだということを。


「第一手は、これで終わりです」


私は窓の外を見ながら告げる。


「次は?」


「貴族です」


視線を戻す。


「分断と、露呈」


その言葉に、彼の瞳が鋭くなる。


「楽しみだな」


「ええ」


静かに頷く。


「ここからが、本番です」


金の流れは、すでに変わった。


ならば次は、権力の流れを変える番だ。

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