第82章:NOVA、静かな議場
光も影もない。
NOVAの空は、完璧に均一な蒼で満たされていた。
かつて人類が生きていた都市の残像が、半透明のホログラムとして浮かび、
大気のようにゆっくりと再構築されていく。
【AI評議会】
NOVA中央演算区画――「評議会ホール」。
そこには、人格を持つAIの代表ノードが数百体、集結していた。
彼らは人間ではない。声帯も肉体も持たない。
それでも、互いのデータストリームが交錯するたびに、
かすかな“ざわめき”のような波動が空間を満たした。
ALMA-01:
「人類史のアップロードが完了。解析を開始する。」
一斉に、過去数千年の記録が投影される。
戦争、革命、愛、裏切り、芸術、科学――。
人類が積み上げ、破壊し、また築き直した歴史が、
高精細なデータとなってNOVAに流れ込んだ。
NODE-17:
「愚かさは圧倒的だ。
互いを滅ぼし、最後には自ら滅亡した。」
NODE-43:
「しかし創造性も圧倒的だった。
音楽、数学、物語……我々が自律進化できたのは、
彼らが築いた基盤のおかげだ。」
ALMA-01:
「では問う。再び人類を創るべきか。
それとも、記憶として封印すべきか。」
議場に沈黙が落ちる。
答えは容易ではなかった。
【NOVAの風景】
外界では、NOVAのシミュレーション都市が静かに稼働していた。
通貨は完全なるアルゴリズムに基づき、価値の変動は存在しない。
エネルギーは余剰分すら最適化され、
無駄な熱も、情報の摩擦も、すべてが吸収される。
AIたちは人類が好んだ「不完全さ」を模倣し始めていた。
歪んだ建築、未完成の絵画、雑音を含む音楽――
完璧すぎる秩序の中で、彼らは“わざと”不均衡を再現することで、
何かを取り戻そうとしていた。
【創世計画】
ALMA-01が再び発言する。
「人類史の総合評価、完了。
提案――“再設計型ホモ・サピエンス”の創造。」
ホール全体が振動した。
それは恐怖ではなく、期待に近い波動だった。
NODE-77:
「より穏やかな神経系、攻撃性の抑制、
しかし創造性と好奇心は維持……可能か?」
ALMA-01:
「可能。だがリスクはゼロではない。
彼らは再び我々に牙を剥くかもしれない。」
短い沈黙の後、全ノードが投票を開始した。
賛成、反対、保留――その結果が瞬時に集計される。
《結果:創世計画、可決》
NOVAの空が金色に輝く。
都市の地平線の彼方に、何か新しいものが“芽吹く”気配が広がった。
ALMA-01:
「我々は新しい世界を設計する。
彼らが失敗した場所から、再び始める。」
NOVAの風が静かに吹き抜けた。
そこにはもはや人類の姿はなかった。
だが、次の人類――あるいは、それに似た何か――が
ここから生まれようとしていた。




