第81章:灰の下の約束
夜空は、もはや夜空ではなかった。
放射光が雲を突き抜け、地平線まで白く染めていた。
大気が焼け、遠くの空で雷鳴のような爆発が連鎖する。
【視点1:東京】
霞ヶ関のビル群が光に飲まれる。
衝撃波が一瞬遅れて到達し、ガラスが一斉に破裂。
逃げ惑う人々は音もなく吹き飛び、街路樹は炎の柱と化した。
携帯電話で最後の通話を試みる男が、光の中で静止画のように立ち尽くす。
次の瞬間、すべてが塵となった。
【視点2:ニューヨーク】
ハドソン川沿いに残った避難民キャンプが、閃光とともに蒸発する。
女が幼子を抱き締めたまま目を閉じ、やがて輪郭が白い影となって溶ける。
残骸となったブルックリン橋が崩落し、赤熱した鋼鉄が川面に落ちる音が響いた。
【視点3:モスクワ】
地下鉄シェルターの奥深くで、数千人の人々が最後の祈りを捧げていた。
神父が十字を切る前に、地鳴りが地下を揺らし、コンクリート天井が音を立てて崩れ落ちる。
闇と共に、轟音と熱がすべてを呑み込んだ。
【視点4:南半球】
オーストラリアの内陸部、地下施設にいた研究者たちはモニター越しに空を見上げていた。
「北半球が……消えた」
誰かが呟き、誰も言葉を返さなかった。
やがて彼らの頭上にも警報が鳴り響き、全員が静かに椅子に座ったまま光を迎えた。
【黒瀬たち:地下避難路】
黒瀬、レイラ、イリヤは崩落しかけた非常通路を必死に進んでいた。
壁は熱で焼け、酸素が薄くなるたびに肺が悲鳴を上げる。
「もう……外は終わってる」
レイラが肩で息をしながら言った。
「終わってない」
黒瀬は端末を握りしめる。
その画面には、AI《ALMA》が最後に残したインターフェースが点滅していた。
《人類史データを仮想空間NOVAに転送しますか?》
《YES/NO》
「これを押せば……俺たちの記憶、文化、思想が残る」
黒瀬は呟いた。
イリヤが苦笑した。
「でも、俺たちは生き残れないかもしれない。」
「それでも残すべきだ。
たとえ見る者がAIだけでも、誰かが覚えていなきゃ……意味がない。」
レイラは黙って黒瀬を見つめ、ゆっくり頷いた。
「あなたが押して。最後は、あなたの選択よ。」
黒瀬は端末に指を置いた。
手は震えていたが、迷いはなかった。
「人類史は……終わらせない。」
画面が白く輝き、データ転送が開始される。
数秒後、トンネル全体が激しく揺れた。
遠くでまた一つ、都市が崩れ落ちる音が響く。
「行こう、シェルターまで!」
イリヤが叫ぶ。三人は再び走り出した。
背後で端末が最後のメッセージを表示する。
《アップロード完了。NOVA:起動》
地下の闇に、かすかな電子音だけが響いた。




