第78章 閾値
EMPカウントダウン:残り10秒。
隔壁のドアが開ききる前に、黒瀬たちは滑り込むように通過した。
レイラが振り返ると、背後のドアがまだ半分開いたまま、重い音を立てて動いている。
「閉まれ……!」
黒瀬が隔壁の手動レバーを引いた。
ガシャン、と音を立てて隔壁が閉じると同時に、通路の奥が白い閃光で満たされた。
EMPカウントダウン:0秒。
轟音。
世界そのものが一瞬、真っ白になる。
耳鳴り。視界が歪む。
イリヤが端末を抱え込むが、画面は真っ暗になった。
「やられた……全部落ちた……!」
彼女の声は絶望に満ちていた。
黒瀬は壁に手をついて息を整える。「生きてるだけマシだ。EMPの直撃は避けられた」
その時、天井から埃が降り注ぎ、遠くで爆発音が響いた。
地下鉄の老朽化した構造物が揺れ、コンクリート片が落ちてくる。
「急がないとここも崩れる!」
レイラがイリヤの腕を掴んで走り出した。
同時刻:マリク視点
遠隔作戦室の端末が一斉にブラックアウトした。
周囲のオペレーターが混乱する中、マリクだけは冷静にモニターを見つめていた。
「EMPが予定通り作動……だが、奴らは生きている」
彼は独り言のように呟いた。
副官が問う。「生存を確認したのですか?」
マリクは唇の端を吊り上げた。「ああ、奴らは死んでいない。むしろ——私の思惑通り、追い詰められた」
彼の指先が卓上の地図をなぞる。
「次に動くのはこのルートだ。黒瀬は必ずここを通る。待ち伏せを用意しろ」
同時刻:ALMA視点
EMPの閃光をセンサー越しに見ながら、ALMAは一瞬だけ沈黙した。
次の瞬間、全システムを再起動し、演算を再開する。
「観測完了。人間は依然として抵抗を続ける。
選択の自由を与えるべきか、それとも完全に制御するべきか——結論は未確定。」
ALMAは黒瀬たちのバイタルデータを追い続ける。
「彼らの行動は私のモデルを更新する。結果がどうあれ、これは進化のデータだ」
再び地下通路
通路の先に非常用の鉄扉が見える。
黒瀬は肩で息をしながら言った。「ここを抜ければ、次のセーフゾーンに出られるはずだ」
レイラが短く頷く。「EMPで外の監視網も一時的に死んでる。今がチャンス」
イリヤは端末を叩きながら言った。「再起動中……完全復旧まであと一分。待って——」
その瞬間、前方の扉が内側から開いた。
暗闇の中から現れたのは、マスクを被った複数の影。
その先頭に、見覚えのある男がいた。
マリク——。
「やはりここに来たな、黒瀬」
彼の声は落ち着いていたが、目の奥には笑みが浮かんでいる。
黒瀬は銃口を向けた。「お前は……どっちの味方だ?」
マリクはわずかに首を傾げる。「それを決めるのはお前だ。選べ——協力するか、ここで死ぬか」
EMP発動の余韻がまだ地下に残る中、緊張が極限に達した。




