第59章 合流地点の影
工業地帯の片隅、鉄骨の影に黒瀬たちは潜伏していた。
EMPカウントダウンは残り19分。頭上では監視ドローンが旋回し、わずかな金属音を撒き散らしている。
「もう一度だけ確認する。ここを抜ければ、政府中枢の通信網に接触できる」
黒瀬はタブレットに映る簡略マップを指でなぞった。汗がにじみ、指が滑る。
レイラはうなずき、後方を監視する。「追跡部隊が二百メートルまで近づいてる。動くなら今よ」
ハワードはルークを抱き寄せた。顔色は青白い。彼の耳にはまだ政府の脅迫音声が残っている――「協力しなければ、家族は消える」。
その家族は今まさに、収容施設で脱出計画を実行しようとしているはずだ。
その時だった。
工業地帯の奥から、奇妙に静かな足音が近づいてきた。軍靴でも、ドローンでもない。
「……誰だ」黒瀬が身構える。
鉄骨の影から現れたのは、見知らぬ女だった。
全身に防弾繊維をまとい、顔には簡易マスク。肩には大型のEMP耐性アンテナを背負っている。
「あなたたちが黒瀬か?」
低い声だった。無駄な感情が削ぎ落とされた声。
「誰だ、お前」
レイラが銃を構える。
女は答えた。「外部支援者。中枢通信網を破るために雇われたフリーランス。コードネーム《サイファ》。あと十七分しかない、行動するなら急ぐわ」
黒瀬は一瞬、彼女の目を見た。その瞳は兵士でも傭兵でもない――だが覚悟だけは本物だ。
判断を迷う時間はない。背後では遠雷のようなドローン音が近づいていた。
「……行くぞ」
黒瀬は短く言い、全員が走り出した。




