第58章 出口の先で
トンネルを抜けると、錆びた鉄扉の向こうに荒れ果てた工業地帯が広がっていた。
煙突の残骸、瓦礫と油まみれの路面、遠くで鳴るサイレン――。
世界がまだ戦争の後遺症から立ち直っていないことを突きつけられるようだった。
レイラが肩で息をしながら言った。
「……本当に、信じていいのか、あの男のこと」
「わからない」
黒瀬は短く答えた。
「だが今は考えている時間はない。EMPまで残り30分を切ってる」
ハワードは腕の中で眠るルークを見下ろす。
額にはまだ冷や汗がにじんでいた。
「もしマリクが時間を稼いでくれなかったら、ここまで来れなかった……」
沈黙が落ちる。
誰も彼の名前をもう一度口に出そうとしなかった。
そのとき、耳障りなプロペラ音が空から迫る。
監視ドローンだ。
「散開!」
黒瀬の叫びと同時に、三人は瓦礫の陰へと飛び込む。
照明が地面を走り、センサーが空気を切り裂く。
レイラが端末を取り出し、妨害信号を送る。
「ジャミング開始……3秒……2……1」
ドローンの動きが一瞬止まり、光が消える。
黒瀬が合図をし、全員が次の建物へ駆け出した。
「あと三つブロックを越えれば合流地点だ!」
黒瀬は振り返らずに言った。
背後で、再びサイレンが鳴り響く。
今度は近い。
政府の包囲網が確実に迫っていた。




