第57章 暗転
地下搬送路は、狭く長いコンクリートのトンネルだった。
湿った空気と機械油の匂いが鼻を刺す。
ハワードは息子ルークの腕を支えながら、ひたすら前へと進む。
先頭を走るマリクが突然立ち止まった。
「ここだ。次のゲートを開ければ外へ出られる」
彼は腰のカードを取り出し、ゲートの端末に差し込む。
赤いランプが点滅し、解錠音が響く。
だが――。
次の瞬間、頭上からシャッターが降り始め、トンネルの両端が封鎖される。
耳をつんざく金属音。
レイラが振り返り、息を呑む。
「閉じ込められた!」
マリクの口元に、一瞬だけ冷たい笑みが浮かんだ。
「悪く思うな。俺も家族を助けたいんだ」
ハワードの背筋に冷たいものが走る。
「どういう意味だ……?」
マリクは銃を抜き、彼らに向けた。
「お前たちを差し出せば、妹は解放される。これは交渉だ」
沈黙。
ルークが怯えた声で父にしがみつく。
黒瀬が一歩前へ出た。
「……俺たちを売る気か」
「違う、これが一番現実的なんだ」
マリクの声は震えていた。
「政府は俺を監視している。今ならまだ間に合う、ここでお前らを拘束したと報告すれば――」
「お前も殺される」
レイラの声が鋭く響いた。
「妹を人質にされてるあんたが、信用されるわけない。私たちを渡したら、次はあんたの番だ」
マリクの眉がぴくりと動く。
揺らぎ。
その一瞬を黒瀬は見逃さなかった。
「撃つなら撃て。だがここで時間を使えばEMPが先に落ちるぞ」
沈黙。
トンネルの奥から警報とドローンのプロペラ音が近づいてくる。
時間がない。
マリクは歯を食いしばり、銃口を床に向けた。
「……クソッ!」
次の瞬間、彼は端末を操作し、封鎖シャッターの緊急解除を叩き込んだ。
金属音と共にゲートが開く。
「行け!ここから先は俺が抑える!」
「本当に信じていいのか?」
ハワードが問いかけるが、マリクは答えない。
ドローンが曲がり角から飛び出してくる。
マリクは銃を構え、反対方向へ駆け出した。
その背中に、ハワードは言葉を失う。
「今だ、走れ!」
黒瀬が叫ぶ。
彼らは再び走り出す。
背後で銃声と爆発音が響き、マリクの叫びが遠ざかっていく。
彼が生きているかどうか、誰にもわからなかった。




