第56章 予想外の協力者
金属音が近づいてくる。
ハワードはポッドから身を離し、壁際に身を潜めた。
指先の汗が銃のグリップを濡らす。
足音。
規則正しい軍靴の音が廊下に響き、影が近づいてきた。
やがて、黒い制服の警備兵が姿を現す――。
だが、その兵士はハワードを見ると銃を向ける代わりに、素早く手を上げた。
「待て。撃つな」
低い声が響いた。
ハワードは困惑しつつも、銃口を向けたまま動かない。
「時間がない。こっちへ来い」
兵士はヘルメットのフェイスガードを外し、素顔を晒した。
年齢は三十代半ば、短く刈り込んだ金髪に鋭い青い目。
その表情には敵意がない。
「誰だ、お前は」
「マリク・アンドレイ。ここのセキュリティ主任だ」
「……主任が俺を助ける理由は?」
マリクは周囲を見回し、小声で言った。
「俺の妹も、この施設に入れられた。適応検査に落ちたからだ。お前と同じだろ、家族を取り戻したい」
ハワードの喉が詰まる。
この男も被害者なのか。
「監視カメラは?」
「今はダミー映像を流している。あと二分で切り替わる。急げ」
マリクはポケットからセキュリティカードを取り出し、ポッドのロックを解除した。
圧縮空気が抜ける音がして、透明なカバーが開く。
ルークがゆっくりと目を開け、かすれた声で言った。
「……パパ?」
「ルーク!」
ハワードは息子を抱き上げた。
まだ足元はふらついていたが、意識ははっきりしている。
「こっちだ」
マリクは背後のサービス通路を指差した。
「メインゲートは罠だ。地下搬送路を使え。外の仲間と連絡を取れるなら、ここで迎えを寄越せ」
「どうしてそこまで……」
ハワードの問いに、マリクは一瞬だけ視線を逸らした。
「俺も、この国のやり方に耐えられなくなっただけだ。AIが決める未来なんて、御免だ」
その瞬間、施設内に警報が鳴り響いた。
ダミー映像が切り替わったのだ。
マリクが顔をしかめる。
「急げ!あと60秒で封鎖される!」
ハワードはルークの肩を支え、マリクと共に狭い搬送路へ走り込んだ。
背後でシャッターが降り始める音が響く。
息が切れ、鼓動が耳の奥で爆発する。
彼らの脱出劇は、今まさに始まったばかりだった。




