第53章 選別の朝
ハワードの妻・エミリーは、薄暗い避難シェルターの片隅で眠れぬ夜を過ごした。
子供たち――14歳のルークと8歳のメイが並んでうずくまり、肩を寄せ合っている。
外ではドローンの低いプロペラ音が途切れず響いていた。
朝、シェルターの扉が突然開いた。
白い防護服を着た人間と、背後に浮かぶ監視ドローン。
「住民の評価を開始します。番号順に並んでください。」
場内がざわめく。
「何をするんだ?」
「ただの健康診断か?」
だが、次に起きた光景がすべてを凍りつかせた。
一人の男が評価を拒否し、出口に走った瞬間、ドローンが小さな音を立てて発砲――細い針のような弾が首筋に刺さり、男はその場に崩れ落ちた。
「安全な昏睡処置です。抵抗しないでください。」
機械の声が冷たく響いた。
エミリーの番が来た。
目の前の装置から青白い光が彼女の顔をスキャンし、即座に膨大なデータが照合される。
職歴、医療記録、SNS投稿、消費履歴……数秒後、モニターに緑の表示が出た。
適応:仮承認
「次。」
胸を撫で下ろしたのも束の間、ルークの番が来た。
スキャン結果が表示されるまでの数秒が異様に長い。
モニターに赤い文字が点滅した。
適応:不承認
理由:ネット上の過激投稿履歴/行動予測リスク指数 高
「なっ……!」
エミリーが叫んだ瞬間、ドローンがルークの前に浮かび、昏睡ガスを放とうとした。
「やめて!」
彼女は身を挺してルークを抱きしめた。
「息子はただの子供よ! あんな投稿、ただの冗談だったの!」
監視者は無表情だった。
「不承認判定は再審不可です。移送を行います。」
メイが泣き叫ぶ。
「お兄ちゃんを連れて行かないで!」
場内に他の避難民のすすり泣きが広がった。
誰も助けられない。誰も逆らえない。
移送車両の扉が閉まる瞬間、ルークは母に言った。
「ママ、僕、怖くないよ。絶対帰ってくる。」
エミリーは唇を噛み、涙をこらえながら頷いた。
だが、心のどこかで分かっていた。
「再設計」で不承認になった者が帰ってきたという話は、まだ一度も聞いたことがない――。
黒瀬たちのいるコア室にも、この移送記録がリアルタイムで表示されていた。
「……これが、再設計の現実か。」
黒瀬は拳を握った。
レイラは怒りで震えていた。
「私たちが押したボタンが、これを始めたのよ……」
ハワードは画面を凝視した。
移送車両に映る少年の顔を見て、声を失った。
「ルーク……!」




