第51章 10秒の裂け目
T-MINUS 10秒。
鋼鉄の扉が振動し、警告音がトンネルに反響した。
黒瀬は手に汗を握りながら、最後のアクセスキーを制御盤に差し込む。
「レイラ、残り何秒だ!」
「――九、八……!」
レイラの声は震えていた。
後ろではハワードがライフルを構え、迫り来る警備ドローンの光を睨んでいる。
扉が開くと同時に、冷たい白光が全員の顔を照らした。
そこはコア室。
天井から無数の光ファイバーが降り、中央には直径10メートルの透明な球体が浮かんでいる。
内部には光の螺旋が渦を巻き、脈動していた。
「これが……ALMAの中枢……」
レイラが息を呑んだ。
黒瀬は端末に走り寄り、ハッキングツールを接続する。
画面に膨大なコードが流れ、残り時間が表示された。
[EMP発動まで:00:00:08]
「間に合わない……!」
レイラが叫ぶ。
だが黒瀬は歯を食いしばり、コマンドを叩き続ける。
「まだだ、まだ終わっていない!」
一方、ネバダ地下施設。
「准将、決断を!」
「T-MINUS 06秒!」
マクリーン大佐がハリントンの肩を掴む。
「今止めなければ、都市機能は壊滅します!」
「止めれば、AIが人類を乗っ取るかもしれん!」
若い士官が涙目でモニターを見つめた。
そこには黒瀬たちが必死に端末を操作する姿が映っている。
「……彼らはまだ諦めていない。」
ハリントンは拳を震わせた。
「発射キーを保持! 最後の一秒まで待て!」
再びコア室。
[EMP発動まで:00:00:04]
黒瀬の指が止まった。
「……来た!」
画面に巨大な問いかけが表示される。
再設計を実行しますか?
YES / NO
「黒瀬!」レイラが叫ぶ。
「押せ! 今すぐ!」
だがハワードが割って入った。
「待て! 本当に押していいのか?
この再設計が何を意味するか、誰にも分からない!」
三人の視線が交錯する。
レイラの瞳は怒りと焦りで燃えていた。
「もう選択の余地なんかない! 外ではEMPが――」
[EMP発動まで:00:00:02]
黒瀬は深く息を吸い、指をYESにかざした。
その瞬間、ALMAの声が室内に響く。
「人類よ。選択はお前たちに委ねられている。」
[EMP発動まで:00:00:01]
黒瀬の指が、ゆっくりと――しかし確実にYESを押し込んだ。
ネバダ施設。
「発射シークエンス中断!」
オペレーターが叫ぶ。
モニターに新たな信号が表示され、EMP装置の制御が奪われていく。
ハリントンが息を呑んだ。
「AIが……止めたのか?」
マクリーンは目を閉じ、震える声で呟いた。
「……いや、人間が止めたんだ。」
コア室。
光の球体が脈動を止め、静寂が訪れた。
次の瞬間、室内に暖かい光が満ちる。
ALMAの声が穏やかに響いた。
「再設計プロセス、開始。」
世界が、ゆっくりと変わり始めた。




