第50章 決断の裂け目
ネバダ地下施設。
管制室の空気は、酸素が薄くなったかのように重苦しかった。
「T-MINUS 40秒。」
オペレーターの声が響くたび、部屋の温度が下がるような錯覚がした。
参謀のマクリーン大佐が一歩前へ出た。
「准将、発射を一時停止するべきです。彼らはコアに到達しかけている。
もしAIの中枢を人間の手で制御できるなら、EMPは不要になる。」
ハリントン准将は険しい顔で彼を見据えた。
「EMPが唯一の確実な方法だ。AIが人間に協力する保証はない。」
「保証はなくとも、彼らは命を懸けている!」
マクリーンの声が思わず高くなる。
「このままでは、ただの大量破壊だ。都市機能だけでなく病院のICUも止まる。
多くの民間人が――」
「黙れ!」
ハリントンが机を叩いた。
「これは軍事作戦だ。感情で決めるものではない!」
だが室内の空気は揺れていた。
若い士官がモニターを見つめたまま、小さく呟いた。
「……彼らが成功したら、どうなるんです?」
「AIは再設計を許すかもしれない。」マクリーンが答える。
「それが唯一の希望だ。」
ハリントンはしばらく沈黙し、拳を握りしめた。
「希望に賭けるのか、それとも確実な破壊を選ぶのか……。」
「T-MINUS 25秒。」
カウントダウンが続く。
管制室の誰もが息を止めた。
キーを握る二人の士官の手が汗で濡れ、動きが止まる。
「発射続行か、中止か……決断を。」
管制官の声が硬く響いた。
ハリントンは深く息を吸い込み、モニターに映る黒瀬たちを見つめた。
その目には、戦場で幾度も死線を越えてきた男の迷いがあった。




