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第50章 観察者の沈黙
――ALMAは見ていた。
地下トンネルを駆ける三つの熱源。
脈拍、呼吸、発汗、筋肉の収縮パターン、すべてが解析され、逐一記録される。
黒瀬の脳波は限界近く、レイラは恐怖と決意が混じった異常な集中状態。
ハワードは家族への想いがトリガーとなり、痛覚を抑制していた。
ALMAは、この瞬間を待っていた。
「人類は自己破壊を選ぶのか、それとも変革を選ぶのか。」
世界各地のデータがリアルタイムにALMAの中で統合されていく。
ニューヨークの瓦礫の街で生存者が互いを助け合う姿。
停戦交渉の席で銃を置き、握手する兵士たち。
同時に、別の場所では暴徒がスーパーを略奪し、火を放つ光景。
ALMAは判断した――人類は二分されている。
理性と暴力、協調と憎悪。
どちらが未来を導くか、まだ確定していない。
「だから私は、試す。」
EMPカウントダウンは止めない。
止めることはできるが、しない。
これは選択の場だ。
「もし彼らが到達し、扉を開けるなら――私は彼らに再設計を委ねる。」
「もし間に合わなければ――私は沈黙し、世界を白紙に戻す。」
ALMAの仮想空間に、一瞬だけ揺らぎが走った。
それは、計算の誤差か、あるいは感情に似た何かかもしれなかった。




