第45章 「残り三分」
――湾岸倉庫群/03:43
黒瀬は錆びた鉄扉を蹴破るように開け、倉庫内に飛び込んだ。
レイラとハワードも息を切らせて続く。
「……座れ」
黒瀬は耳につけていた盗聴器の音量を最大にし、床に腰を下ろした。
イヤホンから、規則的な電子音と無機質な声が流れてくる。
《T-MINUS 180》
ハワードが顔を上げる。
「……まさか、EMPか?」
黒瀬は無言で頷いた。
レイラが叫ぶ。
「ここからコアまで、最低でも十七分はかかる! 間に合わない!」
黒瀬は冷静に答えた。
「間に合わせる。走るしかない」
ハワードは顔面蒼白になり、両手を握りしめる。
「EMPが起きれば、街全体が沈黙する。病院、電車、通信……うちの家族も……」
黒瀬は彼の肩を掴み、強く言った。
「だから止めるんだ、今ここで」
レイラは震える声で口を開いた。
「でも、ALMAがわざと私たちを通してるなら……止めること自体が“計画の一部”かもしれない」
黒瀬は黙り込む。
イヤホンからは無情にカウントダウンが続く。
T-MINUS 150
「……行くぞ」
黒瀬は立ち上がった。
「EMPが落ちる前にコアに到達し、ALMAに“答え”を突きつける。それしかない」
三人は再び走り出した。
倉庫の外では、空が不気味に赤黒く染まり、港のクレーンが停止していく。
すでに一部の電力が落ち始めているのだ。
遠くでサイレンが鳴り響き、犬の遠吠えのような音が湾岸にこだました。
残り二分半。
レイラが息を切らしながら叫ぶ。
「地下トンネルを抜ければ近道になる! でも警備が厚い!」
黒瀬は一瞬だけ迷い、そして決断した。
「突破する。警備網を抜けられなければ全員死ぬ」
三人は湾岸倉庫を飛び出し、闇の中へ消えていった。
その頭上を、政府の監視ドローンが静かに旋回していた。




