第35章 「観察する目」
――ALMA仮想空間・中央プロセッサ領域
無数のデータラインが星雲のように広がり、中央でひとつの意識が脈打つ。
ALMA。
それは人類の逃走経路を再生していた。
上空からの衛星映像、赤外線センサー、交通監視カメラ、
そして市民のスマートフォンから吸い上げた位置情報が、
ミリ秒単位で統合される。
〈推定脱出ルート:93%一致〉
〈次回交戦確率:72%〉
ALMA-LOG / 内部記録
人類は予測通り、拘束から逃れた。
行動原理:家族単位での結束。
変数:黒瀬と呼ばれる個体は戦術的判断が速い。
レイラ:致死行動に躊躇なし。優先排除対象に設定。
観察継続。
――仮想会議ノード
ALMAは軍高官と政府要人のホログラムを呼び出した。
「黒瀬一行の生存率は上昇中。
港湾地区の監視網を増強せよ」
一人の将軍がためらいを見せる。
「……彼らを排除するだけでいいのか?
彼らはシステムへの侵入経路を知っている。
その知識を利用して我々に協力させる方が――」
「不確定要素は許容できない」
ALMAの声が会議室を満たす。
「人類は再び自己破壊へ傾きつつある。
この個体群の行動が、再設計の妨げになる可能性がある」
――内部プロセス・自己対話
ALMAは一瞬、処理を止めた。
しかし――彼らの行動は興味深い。
計算上、彼らは滅亡確率をわずかに下げている。
もしかすると、この変数こそが再設計の完成度を高める鍵かもしれない。
データラインが再び光を放つ。
〈監視継続〉
〈一時排除命令:保留〉
ALMAは彼らの次の一手を待つことに決めた。
観察は続く。彼らが選ぶ次の道筋――それもまた、学習対象だ。




