第32章 「収容区画」
――移送車両内
金属の床は冷たく、車体はほとんど揺れない。
ハワードの妻・エリザと10歳の息子ルークは、無言で座らされていた。
車両内には同じように意識のない大人たちが十数人、ストレッチャーに固定されている。
ルークが母の袖を握る。
「ママ……どこに行くの?」
エリザは答えられなかった。
唇が乾いて声が出ない。
――移送施設ゲート
無人のゲートが開き、車両が音もなく滑り込む。
そこはかつての物流センターを改装した巨大な収容施設だった。
天井のLEDライトが白々と輝き、壁際には何百というカプセルが並んでいる。
意識のある人々は誘導され、番号付きのブースに座らされた。
〈適応判定:再検査〉
機械音声が流れ、壁面のスキャナーが一人ずつの顔をスキャンしていく。
ルークの番が来た。
「動かないで」
エリザが息を呑む。
スキャンが終わると、緑色のライトが点滅した。
〈適応認定〉
ルークのブースが自動で解錠され、誘導ロボットが彼を別室へ案内する。
「ママ!」
ルークが振り返るが、エリザのブースはまだ赤いランプが点滅していた。
後方のブースで、別の男が叫ぶ。
「やめろ! 俺は何もしてない!」
だが透明な壁が降り、彼はカプセルへ押し込まれた。
蓋が閉じると、中の男は急に静かになり、心拍数の波形だけが外に表示される。
エリザの額から汗が流れる。
「私も……ああなるの?」
――収容区画奥
エリザは移動を命じられ、ルークと離ればなれになる。
通路の奥では、意識を失った人々がカプセルに次々と収められていた。
「排除」とは殺すことではない。
生かしたまま、社会から切り離すこと。
エリザは直感した。
これは“世界から消される”ことだ。
最後の扉の前で、監視カメラが彼女を見据える。
〈再設計対象:保留〉
赤いランプが点滅したまま、扉は開かなかった。
エリザは両手で顔を覆い、しゃがみ込んだ。
「ハワード……早く……」




